第10章 乱世【土方歳三編】
その言葉に土方さんは眉間に皺を寄せ、顔を歪ませながら舌打ちをした。
『……分かった。援軍を呼びに行くのは源さんと雪村妹に任せる』
『おやおや、トシさん。言い負かされてしまったねえ』
井上さんの言葉に、土方さんは更に舌打ちをした。
機嫌悪そうにしながらも、私を見ると納得していないと言わんばかりの表情で言葉を発する。
『だが、絶対に生きて戻ってこい。いいな』
『分かりました』
そして援軍を呼びに行く前、私は千鶴と目が合う。
不安げにしている彼女の手を取れば、千鶴は私の手を握った。
お互いの体温を分かち合うように握り合いながら、どちらからとも言わず抱きしめ合う。
『千尋、気を付けてね』
『うん。千鶴も、気を付けて……。あとで会おうね、ちゃんと』
『うん……相馬君』
千鶴の隣に居た相馬君も、不安そうにしていた。
そんな彼の名前を呼ぶと、相馬君は背筋を伸ばしてから私を真っ直ぐに見てくる。
『千鶴を、お願いね』
『はい、お任せください。必ず守ります』
『……頼りにしてるからね』
そして、私は井上さんと井上さんの組と共に淀城まで向かって走ったのであった。
これが私が淀城に行く前に起きた事である。
「隊の皆も心配しているが、トシさんも千鶴君も心配しているだろうね。早く、戻ろう」
「はい」
だけども、本隊が待機している辺りまで歩いてから違和感を感じた。
何故か本隊が待機していた所は無人で、誰も居ないだけではなく話し声も聞こえてこない。
「……井上さん。確から本隊を待たせてたのって、この辺りですよね?道を、間違えたとか……」
「いや、そんなはずはない。確かここを真っ直ぐに行った所に……」
と、その時だ。
道を曲がった先に妙な物を見つけて、私は井上さんへと叫んで呼ぶ。
「井上さん!あそこ、誰か倒れてます!」
「まさか……、薩長の軍勢はまだここまで来ていないはずだが……」
「あっ、あの人!新選組の隊服を着てますよ!もしかしてーー!」
「……足音を立てるんじゃない。ゆっくり近付こう」
警戒したような井上さんの言葉に、私は小さく頷いてから足音を立てないように歩き出した。
まさか薩長の軍がここまでもう来てしまったのだろうかと思いながらも違和感を覚える。
辺りに人の気配を感じない。
敵の軍勢所か、新選組の隊士の方々の姿も気配さえもないのだ。