第10章 乱世【土方歳三編】
「危ない、伏せなさい!」
「っ!!」
井上さんは私の手首を掴むとその場に伏せさせた。
その矢先、城の各所からは銃声がこだましたのだ。
しかも各方面から続けざまに、私たちを明らかに狙っているかのような銃声。
もしかして、薩長連合軍がいるのかと思った。
でも辺りに敵の姿なんてなく、やはり今の銃は私たちを狙ったものだとわかる。
「……なんで、どういうことなんですか!?淀藩は、幕府側の、味方では!?」
「薩長の勢いに気圧されたか、はたまた民を戦乱に巻き込みたくないとの深謀遠慮か……。とりあえず、本隊に戻ろう。これ以上ここにいるのは危険だ」
「そんな……!でも、淀藩から援軍を呼ばなければ……それに、土方さんが呼べと!」
戸惑い等色んな感情がせめぎ合い、私の思考はまとまらない状態だった。
するとそんな私に井上さんは厳しい表情で首を横に振る。
「……あんたも、もうわかってるだろう。彼らは、我々の味方ではない。ここに長居すればするだけ、あんたの身を危険にさらすことになる」
「でも、そうしたら……新選組、土方さんはどうなるんですか!?……淀藩の方に、もう一度ッ」
「……いい加減にしなさい!」
「っ……!」
「トシさんの為に増援を呼びたいのは、私だって同じだ。だが私は淀藩に援軍を頼みに行くのと同時に、あんたを守る役目も仰せつかってるんだよ。もしあんたの身になにかあれば、命令に背くことになる。……さあ」
井上さんの厳しい言葉に、私はやっと落ち着いた。
そして同時に悔しくなって唇を強く噛み締めながら、顔を静かに俯かせる。
淀藩に増援をお願いするのは、もう無理なんだとやっと理解する。
それに増援を呼びたくて、土方さんと新選組を守りたいという気持ちは私だけじゃなく、井上さんだって同じ。
それに、江戸からずっと一緒に土方さんといた井上さんは無念のはず。
(それなのに……私の為に、撤退を決めたんだ……)
悔しさと歯がゆさに唇を更に噛み締めた。
自分かこんなにも情けなく感じてしまい、私は小さな声で井上さんに謝る。
「ごめんなさい、井上さん……。私っ、何も出来なくてッ……」
「気にせんでいいよ。なに、トシさんのことだ。きっとこの状況を引っくり返すだけの奇策を考えてくれるさ」
井上さんは優しく言葉をかけてくれて、私の肩を優しくぽんぽんと戦いてくれた。