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君ノ為蒼穹に願ふ【薄桜鬼真改】

第10章 乱世【土方歳三編】


今まで新選組は負け知らずだった。
そんな彼らが今、薩長連合軍に為す術もなく押されている状態。
今の状態は、今まで心血注いで新選組を作り上げた土方さんにとって、何よりも受け入れ難い事実の筈だった。

やがて、土方さんの口からは諦めにも似たため息が漏れる。
そして固く握った両の拳には薄らと血が滲んでいた。

『……なるほど。もう、刀や槍の時代じゃねえってことだな』

やがて彼は、底冷えしてしまうぐらいな双眸をぎらつかせた。

『……ここは撤退だ。だが、まだ負けたわけじゃねえ。この借りは必ず返してやるからな』

悔しさを滲みさせた瞳を萌えたぎらせながら、土方さんはそう言い放った。
それが先程まで起きていた事だ。


「あの人がどんな思いで撤退の言葉を口にしたか……。付き合いの長い私には、よくわかってるつもりだ。負け戦なんてのは、一度経験すればもう充分だよ。私は、刀としてはまるっきり勇さんたちの役には立たないと思ってる」
「……そんなことっ」

私は【そんなことないです】と言おうとしたが、それを遮るように井上さんはゆったりと微笑みながら答えてくれた。

「ただ、こんな私でも、新選組を勝たせる為にできることはきっと何かあるはずだ。だから……、頑張ろうな」
「……はい」

新選組の為に、そして近藤さんや土方さんの為にきっと何か出来ることがあるはず。
それから数刻の時を経て、私たちは淀城へと辿り着いた。

土方さんはこの淀城を本陣として、敵である薩長連合軍を撃つつもりらしい。
だけど淀城について直ぐに、何か様子がおかしい事に気が付いた。

「井上さん……。城門が閉まってます……。薩長との戦闘に備えてるとか、でしょうか?」

何故か城下には人の気配を感じない。
それに不気味な程に城の中や辺りは静まり返っている。

「いや……」

そんな淀城を見た井上さんは、口元に手をあてがいながら暫く考え込む。
だがやがて、意を決したように顔を上げた。

「我々は、幕命を受けて参った!御上に弓引く逆賊を迎え撃つ為、力を貸してもらいたい!」

井上さんが、空も張り裂けんばかりの声で叫ぶ。
だけどいつまで待っても、城門は開こうとしなかった。
どうして開かないのだろうと思っていた時だった。

「……あっ、井上さん。あそこの窓の所に人がいま……あれ?何か、光る物を持ってる……?」
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