第10章 乱世【土方歳三編】
土方さんは、私がおにぎりを食べ終わるまで待ってくれていたみたい。
食べ終わると彼は私に声をかけてきた。
「あれっぽっちで腹はふくれたか?」
「はい。充分です」
「屯所内の事は、お前と姉に任せたからな。後は頼んだぞ」
「はい!お任せください」
任された事にまた嬉しさが溢れてきて、私は思わず背筋を伸ばしてから返事をした。
そんな私に土方さんは少し微笑みを浮かべていて、少しだけ驚いたけれども、私も微笑んだ。
そして土方さんは、踵を返すと建物へと入っていく。
建物の中に消えていく彼の背中を見ながら、私は満たされた胸を少しだけさすった。
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ー慶応四年・一月ー
本格的な治療を受けるため、近藤さんと沖田さんは奉行所を離れて大阪城へと向かった。
その後、京の各所では睨み合いが続いていたがついに幕府と薩長軍の間で戦端が開かれてしまう。
そして、慶応四年・一月三日。
入京しようとする幕府と薩摩藩との間にいさかいが起きる。
これがきっかけとなり、とうとう戦いの火蓋が切って落とされてしまった。
総勢一万五千人余りの幕府に対し、薩長連合軍の数はわずか五千人。
勝敗は火を見るよりも明らかになるはずだった……。
だがこの戦に賭ける薩摩・長州の両藩の士気は幕府より凄まじかった。
それは幕府軍を圧倒する程に。
過去に、薩摩はイギリス。
長州は英仏蘭米、そして幕軍と二度の戦闘を経験している。
彼らはその経験を通して、様式戦術を完全に我がものにしてしまっていた。
そして、やがて伏見奉行所にも大砲が撃ち込まれ火がついてしまう。
新選組は伏見からの撤退を余儀なくされていた。
「はっ、はあ……はっ……」
「大丈夫かね?少し休んだ方がいいかい」
「いえ、休まなくても大丈夫です。今は休んでる暇ではないですから」
汗を拭いながらも、私は走り続けたせいで痛みだした足を摩るとまた走り出す。
私たち今、土方さんに命じられて伝令として淀城に向かっている途中だった。
このままでは、薩長連合軍に負けてしまう。
その為、援軍を呼んでから少しでも戦況を有利にしようという考えだった。
「井上さん……。淀城の方は、援軍を引き受けてくれるでしょうか?」
「何としてでも、助けてもらわねばな。……トシさんの為にも、絶対に」