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君ノ為蒼穹に願ふ【薄桜鬼真改】

第10章 乱世【土方歳三編】


「本当に今日はありがとう。それじゃ……」

私と千鶴がお礼を言うと、お千ちゃんと君菊さんは足早に伏見奉行所の前を離れて行った。
二人の背中を見送りながらも、私はお千ちゃんの言葉を思わず呟いてしまう。

「……どんな事情も立場も、恋の前には無力、か」
「千尋は、土方さんに恋してるんだね」
「……え!?」
「そっかあ……。そうだよね、千尋も恋をしたっておかしくない歳だものね」
「いや、あの……まだ、土方さんに恋をしてるかどうか私もわかってないというか」

傍に居たいと思ったり、彼の時折笑う表情が好きと思うのはある。
でも今まで恋なんてした事がなかったから、これが恋なのは分からない。

恋とは何を指す言葉なんだろう。
そう思っていれば、何故か千鶴は嬉しげに笑いながら私の手を握った。

「可愛い、妹に好きな人かあ……。嬉しいような、寂しいような感じだね」
「ち、千鶴……。そ、そういう千鶴も相馬君に恋してるでしょ?」
「……え!?」
「私も複雑だからね?嬉しいけど、寂しいとか色々……」
「……双子揃って複雑な心境なんだね」
「……そうだね」

私たちはそう呟いてから、思わず互いに笑い出してしまった。
恋をしているのはまだ分からないけれども、ただ一つだけはわかる。
私は土方さんの傍に居たいという気持ちだけは……。


そして夕方。
私は伏見奉行所内で夕ご飯の手伝いをしていた。
ここに来てから、私が出来るのは食事の準備からお掃除ぐらい。
だけど、夕ご飯のおかずは用意できなくて、ご飯を炊くだけの質素すぎるものだった。

(戦の準備とかに忙しくて、食材を買える時間もないから仕方ないよね……)

せめて、彼らが食べやすいようにとおにぎりを作ってから、手伝いに来てくれた千鶴と共におにぎりを配って歩いた。

「まだ、おにぎりを貰っていない方はいますか?」
「こっちにもください!」
「あの、もう一つ食べてもいいですか?」
「もちろんですよ。遠慮しないで、どうぞ食べてください」
「じゃあ、俺も!」

戦の準備や見廻りでお腹を空かせていたのか、隊士の皆さんはどんどんおにぎりに手を伸ばした。
幹部の皆さんの分はあるから、大丈夫かなと思っていればあっという間におにぎりは無くなっていく。

(あ、あっという間に無くなって、一つだけになった……)
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