第10章 乱世【土方歳三編】

「……出て行きたくねえんだろ？」
「……え」
「だったら、余計なことを考える必要はねえ。ここにいりゃいい」
「土方さん……」

彼の言葉に目を見開かせた。
土方さんは『ここにいればいい』そう言ってくれたけれども、本当に良いのかどうか迷う。

「でもっ……いいんですか、ここにいても……」
「何度も同じことを言わせるな。この二人と一緒に行ったところで風間に居場所をかぎつけられねえ保証はねえんだろ？……奴は、俺たち新選組にとっても敵だ。同じ敵を相手にするんなら、一箇所に固まってた方が効率がいいじゃねえか」

不機嫌そうな表情で言う土方さんだけども、その言葉の意味はつまり……。

「私……私たち、ここにいてもいいんですか？」
「愚問だ。迷惑だと思ってたら、とっくに放り出してる」

彼の言葉に心の底からほっとした。
出ていけと言われなくて、ここに居てもいいと言って貰えて嬉しい。
そして私と千鶴はお互いの顔を見合わせて、安堵したように微笑んだ。

私も千鶴もここから離れたくない。
彼らにお世話になっていたのに、自分たちだけ戦から逃れる為に離れるのは嫌だ。
それもあるけども、私は土方さんの傍にいたくて、千鶴は相馬君の傍にいたい。

「……ありがとうございます、土方さん……！」

お千ちゃんの言葉にかなり悩んだ。
私たちが居ない方が、新選組にはいい事かもしれないと思ったけれども土方さんは居ても良いと言ってくれたのだから。

「それに、雪村妹。お前、俺が無理しねえように目を光らせて見張るんじゃなかったのか？」
「……え」
「近藤さんと約束したんだろ？俺の傍にいる……そんな面倒くさい約束を」
「……はい。私、土方さんが無理しない為にもここに残ります。それに千鶴は……相馬君と約束したんだよね」
「うん」

私たちはそれぞれの約束を交わしている。
土方さんの傍にいる約束、千鶴は相馬君の傍にいるという約束を……。


「はあ……。また振られちゃったか」
「……ごめんなさい。せっかく誘ってくれたのに」
「本当に、ごめんなさい」
「ううん、いいのよ。あなた達がここにいたいって言うのなら、無理強いはできないもの。……それより、教えて欲しいことがあるの、千尋ちゃん」
「……私？」
「うん。前にあなたが言ってた【気になる人】って、土方さんのことなの？」