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君ノ為蒼穹に願ふ【薄桜鬼真改】

第10章 乱世【土方歳三編】


「……では、あなたたち新選組の羅刹が、見廻りと称して辻斬りをしているのはご存知ですか?」
「……何?」

君菊さんの発した言葉に、土方さんは一瞬だけだったが狼狽えた様子を見せた。
だけどもすぐに何時もの厳しい表情へと変わる。

「そひゃ、どこでつかんだ情報だ?」
「それに関しては、お答えする必要はないと思いますわ。ただ、信頼をできる筋から得たとだけ言っておきます」

信頼をできる筋というのは、何処からなのだろう。
君菊さんは艶やかな笑みを浮かべていたけれども、直ぐにその表情は厳しいものへと変わった。

「……羅刹化して血に狂ってしまう症状は、全く改善されていないご様子。都の治安を守るのが、あなた方の役目ではなかったかしら。そんな方々が、血を得る為に罪のない民を斬るなんて、本末転倒もいい所ですわ。事が公になって民心が離れる前に、羅刹たちを処分するべきです」
「……処分」

君菊さんの言葉は正論そのもの。
だからなのか、土方さんも切り返す言葉が見つからずに黙っていた。

あまりにも重い話題は、部屋の中の空気さえも重くしていく。
そして水を打ったように静まり返り、外から聞こえる隊士の方々の声が部屋まで聞こえてくるだけ。

(でも……本当に羅刹隊が、血を得る為に辻斬りをしてるのかな……)

信じたく無い内容。
だけども、お千ちゃんたちが言うように羅刹を処分してしまえば、それは山南さんや平助君も対象に入ってしまう。

「……とりあえず、この話はここで保留ってことにして、もう一つの用件に移らせてください」

沈黙を破ったのはお千ちゃんだった。
そして、彼女はそう言うなり私と千鶴の方へと振り返る。

「千鶴ちゃん、千尋ちゃん。ここを出て、私たちと一緒に来ない?」
「えっ……?」
「ここを出て……?」
「前にも同じことを言ったけど……あの時と今じゃ、状況が変わっちゃってるでしょ?」
「……近い内に、京は戦場になります。逃げ出すのなら今の内ですわ」

彼女たちは、私たちの身を案じての話をしてくれているのだろう。
戦が始まれば私たちもかならず無事とは言えないけど、直ぐに『わかりました』とは言えなかった。

「お願い、私たちと一緒に来てちょうだい。ここの人たちじゃ、戦になった時、あなた達を守り切れるとは思えないの」
「おい、そりゃどういう意味だ?俺たちが非力だって言いてえのか」
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