第10章 乱世【土方歳三編】
お千ちゃん達は、一体何の要件でここを訪ねに来たんだろう。
そう思いながらも、何故か胸には何とも言えない不安が募り初めていく。
不安が勘違いでありますように……そう祈りながら奉行所内にいる土方さんの元へと向かった。
「……意外な客があったもんだな。本来ここは部外者は立ち入り禁止なんだが……、今日は一体何の用だ?」
あれから、土方さんにお千ちゃんたちが来ている事や話したいことがあると言っていた事を伝えれば、彼は苦い表情を浮かべながらも彼女たちを中に通した。
「ごめんなさい。どうしても、今日しなければならない話があったものですから」
「あの……私たち、お茶を淹れてきますね」
「いえ、話が終わればすぐにお暇するから、お茶は要らないわ。それより。あなた達もここにいて。……あなた達にも聞いておいて欲しい話だから」
「は、はい……」
「……わかりました」
お茶を淹れに立ち上がろうとした私と千鶴は、お千ちゃんの言葉に頷くと座り直した。
一体彼女は何の話をするのだろうと思いながらも、お千ちゃんの方へと視線を向ける。
「話というのは、他でもありません。羅刹のことなんです」
彼女から【羅刹】という言葉から出たことに、土方さんの目の色が変わった。
「単刀直入にうかがいますが、一体いつまで羅刹をお使いになるつもりですか?」
「いつまで、とは?」
「これだけ長い間、彼らを使役しているんですもの。わかるでしょう?……羅刹は失敗作です。幕府側も、そう認めています。あれは、あなたたちの手に余るもの。それ以上、羅刹にも鬼にも関わるべきではありません」
「……失敗かどうかは、使ってる俺たちが決めることじゃねえのか?こっちでも、幕府とは別の方法で羅刹の改良を加えてるところだ。あんたらにごちゃごちゃ言われる筋合いはねえよ」
土方さんの言葉に、お千ちゃんも君菊さんの目が厳しいものへと変わる。
それよりも、彼女は何故【羅刹】の事を知っていたり幕府側の事を知っているのだろう。
鬼は本来人とは関わる事を好まない。
昔、本当の母様から話を聞いたけれども大抵の鬼は人に見つからないように隠れ住んでいる。
だけど、八瀬の姫である彼女は違うのかもしれない。
幕府や他の諸藩達との繋がり……もしかしたら、朝廷とも繋がりがあるのかもしれないと考えながらも、土方さんやお千ちゃんたちの様子を見守る。