第10章 乱世【土方歳三編】
「変若水を飲むっての決めたのはオレだけど、この先どうなっちまうか……不安がねえわけじゃねえよ。……山南さんは、もっと羅刹隊の人数を増やすべきだって言ってるけどな。そうしなきゃ、これからの戦に勝てないって」
「戦に……勝てない」
「でも、その為に隊規違反もしてねえ隊士に変若水を飲ませるってのは……」
「……そうだよね」
いつもは明るい表情を浮かべる事が多い平助君。
だけど、今の平助君はいつもとの似つかしくない沈んだ表情で、つい私まで気分が重くなっていく。
「……でも、山南さんが何を言っても、最終的にどうするかを決める権限は土方さんにあるからね」
「だよな。ただ……羅刹隊はもう存在しちまってるわけだし、臭い物に蓋をし続けるのも限度があるよな」
「まあ、羅刹隊を強力な兵力と割り切って活用するのも間違いではないんじゃない?……剣としては、そこそこ使えるからね」
沖田さんの言葉に、私は眉を下げながら俯くばかりだった。
戦が終わるまでの間、羅刹隊を戦力として見て使う……それは、勝つことだけを考えるなら名案かもしれない。
だけど、もし戦が終わればどうなるんだろう。
羅刹隊はその先はどうなってしまうのだろうと思いながらも、私は沖田さんと平助君にその疑問を聞けずに黙り込むばかりだった。
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ー翌日ー
伏見奉行所に意外な訪問者が訪れた。
「あっ……!」
「どうしたの?千鶴」
奉行所前を掃除していると、千鶴が声をあげたのでどうしたのだろうと振り返った。
そして、そこにいた人物達に私も驚いて目を見開かせる。
「こんにちは、千鶴ちゃん、千尋ちゃん。しばらくぶりね」
「お千ちゃん……!」
「お千ちゃん……?どうしてここに……」
「それに、君菊さんまで……」
私たちの目の前にいたのは、鬼であり私たちの良き味方でもあるお千ちゃんと君菊さんがいた。
どうしてここにいるのだろうと疑問を抱いていれば、君菊さんは柔らかい笑みを浮かべる。
「局長殿に用があって参りました。取り次いでいただけますか?」
「あ……近藤さんは……」
「実は、今近藤さんはお話が出来る状態じゃないんです。……土方さんなら、お話は出来ると思いますが」
「じゃあ、土方さんでいいわ」
「わかった……。今、会えるかどうか聞いてくるね。千鶴、私、聞いてくるね」
「うん、お願い」