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君ノ為蒼穹に願ふ【薄桜鬼真改】

第10章 乱世【土方歳三編】


「その、まさかですよ。君たちに、どうしても渡しておかなくてはならない物がありまして」

山南さんはそう言うと、傍らに置いていた風呂敷包みを素早く解いた。
そして中から出てきたものに、私たちは思わず目を見開かせてしまう。

「それは……変若水ですか?」
「……その通りです。我々は新選組幹部としてこの薬の研究を受け入れーー今まで実験を続けてきたことについて、最後まで責任を取らなくてはなりません。何より、近藤さんのように怪我をして剣を振るえなくなったりーーー最悪の場合、命を落とすことだって有り得るのです。この薬はそんな時、必ず役に立ってくれる筈です」

変若水が入ったびいどろが不気味に光を帯びていた。
赤黒い血のような液体は、何故か背筋がぞくりと粟立つ感覚がする。

これを飲めば確かに最悪の場合は助かるかもしれない。
でもそれは、血に狂ってしまう【羅刹】という人ならざる者になってしまうこと。
すると、山南さんの話を聞いていた永倉さんが眉間に皺を寄せていた。

「……山南さん。あんた、俺たちを薬の実験道具にしようってのか?」
「今の状況で、幹部隊士の誰か一人でも欠けては困ると言っているだけですよ」
「ふざけんじゃねえ!俺はこんな薬に頼ってまで、生き永られたくはねえぜ!」

永倉さんは怒りを顕に言い捨てると、そのまま広間を後にしてしまった。

「……お守り代わり、ってところかね。この薬を飲むような状況にならないことを祈りたいが」
「……井上さん」

井上さんは苦笑いを浮かべながらも、びいどろの小瓶を手に取った。
そして斎藤さんと原田さんもびいどろへと手を伸ばして懐へと収める。

「……お借りします」
「ま、使うことはねえと思うが、一応受け取っとくぜ」
「……土方君」

土方さんはそれまで無言で腕組みをしながら、皆さんの様子を見ていた。
だけどやがて、彼は変若水が入ったびいどろへと視線を向ける。

「責任を取らなきゃならねえ、か。……ま、確かにその通りだよな」

彼もまた、苦い表情をしながら薬へと手を伸ばして着物の袖の中へと入れる。
変若水は永倉さんが受け取らなかった分だけ、その場に残っていた。

「それでは、今夜はこれで解散とします。……私の好意が無にならないよう、祈っていますよ」

山南さんの言葉を聞き届けると、幹部隊士の方々は散り散りに広間を後にした。

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