第10章 乱世【土方歳三編】
怪我の痛みや熱の苦しさで顔を歪ませながらも、近藤さんは笑っていた。
自分がこんなにも酷い怪我を負ったというのに、彼は自分よりも他人を気にしてしまう。
(近藤さんは本当に優しい人だなあ……)
そう思いながら、近藤さんと土方さんの話に耳を傾けている時だ。
近藤さんはふと、私の方へと視線を向けてくる。
「雪村君。一つ、君に頼みたいことがあるんだ」
「私にですか……?なんでも言ってください。私が出来ることでしたら、何でもしますので」
「俺が大阪城に行くのは、トシから聞いていると思う。俺が大阪城に行けば、新選組の全てをトシが背負うことになる。トシはそのぐらい平気だと言うだろうが、全て背負うのはなかなかキツイものだ。だから……トシの傍でトシを支えてやってくれないか?」
彼の言葉に少しだけ目を見開かせた。
確かに、近藤さんが大阪城に向かい新選組を離れたら必然と指揮権や全ての事を土方さんが背負うことになる。
私が想像出来ないほどにその重圧はかなりのもののはず。
「おい、近藤さん。俺は別に……」
「ほら、トシは直ぐに平気だと言うだろう?きっと限界が来ても無理に働こうとする。だから、無理をしないように雪村君……。君が、トシを支えてやってほしい。君になら、トシを任せれる」
土方さんが【平気だ】と言う前に、近藤さんは彼の言葉を遮った。
すると土方さんは苦い表情をしながら、近藤さんから視線を逸らす。
そして私の返事はもう決まっている。
私が土方さんの為に出来ることなんて、ちっぽけな事しかない。
でも、それでも土方さんの支えになりたいという気持ちはちゃんとある。
「はい、お任せください。土方さんが無理しないように、ちゃんと目を光らせています」
「うむ。頼んだぞ、雪村君」
「はい」
「……たくっ。うるせえお目付け役が出来ちまったじゃねえか」
「はは。トシは直ぐに無理するからなあ……お目付け役が必要だと俺は思うぞ。雪村君のように、お前にはっきりと物が言えるような子がな」
「わかった、わかった。……あんたはもう、無理に喋らずに休んどけ」
「ああ。すまないな……トシ」
それだけを言うと、近藤さんはゆっくりと目を閉じる。
そして時間もかからずに、近藤さんは小さく寝息をたてはじめた。
痛み止めや熱冷ましのお薬を飲まれているから、眠気があったのだろう。