第10章 乱世【土方歳三編】
見抜かれてしまった事に苦笑を浮かべる。
土方さんの言う通り、私はこの伏見奉行所来てからずっと不安を抱いていた。
だってもう少ししたら戦が始まってしまうかもしれないのだから……。
(銃や大砲、戦の準備を見ているとどうしても里が襲われた時を思い出しちゃう……)
家や森に火が着き、悲鳴と怒号に血の臭い。
禁門の変の時もそうだったけど、戦を見るとどうしても嫌なことばかり思い出す。
「……昔を思い出すか」
「……え」
「前に言ってただろ。お前たちの里は人の争いで滅ぼされたってな。同じような事が起きると思ったら不安なのは……当たり前か」
「それだけじゃないんです」
勿論、土方さんが言った通りに里のような事をまた見るのはかなり辛い。
だけど不安なのはそれだけじゃなかった。
「土方さんや、他の皆さんが怪我をされたりするのが不安なんです……」
土方さん達は普通の人間だ。
鬼である私や千鶴と違って、致命傷を負えば直ぐに治る訳じゃない。
だから、戦が始まった時に土方さん達が致命傷になる怪我をしないか不安だった。
そう話していると、土方さんは少しだけ驚いたような表情をしていた。
なんで、そこで驚くんだろうと思わず首を傾げてしまう。
「おまえ、変わったな」
「……変わった?」
「前なら、姉の事ばかり心配してただろ。それなのに最近は俺たちのことばかり心配しいる。何の心境の変化だ?」
そう聞かれて、私はすぐに答えた。
「だって千鶴と一緒で、土方さんたちも今の私にとっては大切な人たちですから」
「……大切な人たち」
昔は千鶴だけが大切だった。
兎に角、千鶴が傷つかないようにと危険な目に遭わないようにと心配ばかりしていた。
でも、新選組で過ごすようになってからは私が心配したり大切だと思うのは千鶴だけじゃなくなった。
「はい。私にとっては、土方さんも新選組の皆さんも凄く大切な人たちです」
「……そうか」
私の言葉を聞いた土方さんは、口元を緩めながらお茶をまた飲み始めた。
何故か土方さんはその時機嫌が良さそうで、どうしたのだろうと思いながらも、今この時の緩やかな時間が心地よく感じる。
まだこの時は、緩やかだった。
その緩やかな時間が終わりを告げたのは、数日後のある日のことであった。
(近藤さんや千鶴、相馬君に島田さんは今頃軍議が終わって帰ってきてるかな……)