第10章 乱世【土方歳三編】
「……だから俺たちも負ける、って言いてえのか?」
「いえ、そこまでは……」
「別に責めてるわけじゃねえよ。構わねえから、思ってることを言え。……正直に言っちまえば、俺も厳しい戦になると思ってるからな」
どうも話を聞く限り、二人はこれからの戦について真剣に話し合っているみたいだ。
そして土方さんに促された相馬君は、意を決してように口を開いた。
「以前の長州征伐のとき、俺は最前線でこそなかったですが、それでもよく覚えています。こちらからは手が出せないのに、薩長の連中が銃を撃つ度に、味方が何人も倒れていく恐怖。……あの時の敗北感は、その場にいないとわかりません」
「敵さんの銃との性能差があることは、俺も前から憂慮してる。……とはいえ、戦わないうちから引くわけにもいかねえのは事実だ」
「……はい。わかっています」
「今更じたばたしたところで、銃が手に入るわけでもねえからな……」
彼らの表情は苦いものだった。
私や千鶴は戦について詳しいわけではないけれども、前の長州征伐の時に幕府側か苦戦したのは知っている。
あの時から、幕府は崩落していて戦の仕方ならば長州が上。
そんな話を町でちらほらと聞いたことが何度かあった。
「おまえの意見は参考にさせてもらう。……最悪の事態に備えて、退路も確保しとかねえとな」
相馬君の言葉を検討しているのか、土方さんは何やら思案に暮れた顔のまま、すたすたと歩いて去ってしまった。
「……私、土方さんにお茶を持っていくね。さっき広間に居なかったから、届けれてないの」
「分かった、いってらっしゃい、千尋」
私は千鶴に見送られながらも、お茶を手にしから土方さんの後を追った。
「土方さん!」
「ん?ああ、雪村か……どうした」
土方さんの後ろ姿を見つけて声をかければ、土方さんは真顔のまま振り返る。
そんな彼に私は湯呑みを差し出した。
「お茶、よければどうぞ」
「ああ、悪いな。考えてみれば、朝から飲まず食わずだったな……」
「あとで、おにぎりでもお持ちしましょうか?」
「……そうだな、頼む」
湯呑みを手にした土方さんは、ゆっくりとお茶を飲んでいた。
そんな彼を見ながらも、私は外で聞こえてくる戦の準備をしている隊士の方々の声を聞く。
「不安か?」
「……え?」
「この伏見奉行所に来てから、お前は不安な顔ばっかりしてるからな」