第9章 修羅【土方歳三編】
「少しは、てめえの力を自覚しろ。いくらやる気があっても、おまえは斎藤や山崎、島田とは違う。新八や原田みてえな荒っぽい真似ができるわけでもねえ。人に仕事を振るっつうのは、おまえが思ってるほど簡単じゃねえんだよ」
「……それは、分かっていますが……」
土方さんの言う通りなのは分かる。
私のような小娘では、斎藤さんたちや永倉さん達のような事はお手伝いが出来ない。
私が出来ることなんてほんの僅かに限られていて、土方さんの重荷を少しでも軽くする事なんて出来ないのだ。
それでも、どうしても土方さんのお役に立ちたい。
小さなことでもいいから、彼の重荷を少しだけでも軽く出来ることが出来れば、それでいいのだ。
「私が、力不足で非力なのは自分でもよく分かっています。ただ、今は皆さん、大変な思いをされている時なのも分かっています。だから、少しだけでもいいんです……何かお手伝いをさせてください」
畳に手をついて、私は土方さんへと頭を下げた。
「お願いします……」
そんな私を土方さんは暫く、怪訝そうな眼差しで見下ろしていた。
だけど、やがて土方さんの深いため息が聞こえる。
「はあ……、ったく」
呆れさせてしまったのだろうか。
そんな不安が過ぎった時、私の顎に何かが触れた。
それが土方さんの指という事に気がつくのに、時間はかからなかった。
顎を指先でつかまれて顔を持ち上げられる。
顔を上げて視線を上に上げれば、土方さんの端正な顔があった。
そして彼の瞳は、まるで心の奥底を見透かして射抜くかのようなもの。
「……役に立ちたいと言ったな?」
「はい」
「それはどうしてなのか、答えられるか?」
「……それは」
咄嗟に言葉が出なかった。
「……手柄を立ててえのか?それとも、俺たちの機嫌を取って、扱いを良くしてとらおうって魂胆か」
「いいえ、違います」
それだけは、はっきりと答えられる。
「じゃあ、なぜだ?言ってみろ」
「私は、これまでずっと皆さん方に守られてきました。時には危険な目に遭って、怪我をされたり命の危険に晒されたり。それでも守ってくださいました。ですから、私も、私にできることを精一杯したいのです。後悔するのは、もう嫌ですから……」
これから先、また風間が私や千鶴を連れ去りに来た時。
他の隊士の方々が危険な目に絶対に遭わないなんて保証は何処にもない。