第9章 修羅【土方歳三編】
私は多少、刀が使えるだけ。
たったそれだけであり、皆さんのように風間と戦えることなんて出来る訳じゃない。
だからこそ、皆さんのお役に立ちたいのだ。
土方さんは無言のまま、私の瞳のその奥を見据えていた。
見据えている土方さんの瞳を、私は目を逸らすこと無くじっと見る。
そして、土方さんはやがて口をゆっくりと開いた。
「……なら、そんなに簡単に頭を下げるんじゃねえ。おまえは、間違ったことを言ってるなんて思ってねえんだろ?」
彼の言葉に、思わずはっとして目を見開かせた。
「てめえの心の中に、どうしても譲れねえものがあるっていうんならーー。どんな時でも、前を見てろ。絶対に、目をそらすんじゃねえ」
彼の切れ長の瞳には熱を帯びたような光が宿っていた。
まるで、心の中の弱さとかを全て消し尽くしてしまいそうな強い光。
そんな光が宿った彼の瞳を待っすぐに見つめながら私は答えた。
「……はい。土方さん、お願いします。何か私に出来ることがあれば、何でも申し付けください」
「いいだろう」
やがて、顎に触れていた土方さんの指が静かに離れていった。
「そんなに言うなら、そうだな……まずは茶でも淹れてこい」
「お茶ですね。直ぐにお持ちします」
「その茶の味には、新選組の命運がかかってるんだからな。とびっきりうまいやつを頼むぜ」
「お任せください!」
私は笑顔を浮かべると、直ぐに土方さんの部屋を出てから勝手場へと急ごうとした時だった。
部屋から土方さんの呟きが聞こえてきた。
「それにしても……どうなっちまうんだろうな、俺たちは」
その呟きに私は何も言えずに、ただ勝手場へと向かったのだった。
揺れ動いている新選組。
【羅刹隊】は、そして新選組はどうなってしまうのだろう。
私はただ、羅刹になった人、仲間が羅刹になるのを黙って見ているしかない。
そして皆の気持ちがばらばらになっているように感じるようになった。
そして数日後のことーー。
王政復古の大号令が下された。
王政が復古するということは、それは武士の時代が始まる前の姿である、朝廷が政治を行う時代に還るということ。
幕府が将軍職を廃止され、京都守護職や京都所司代までが無くなってしまう。
新選組が信じてきたものが、大きく音を立てて崩れ始めようとしていた。