第9章 修羅【土方歳三編】
「もう、目は通した。こんな物をいつまでも残しておくと、誰かに読まれぬとも限らん」
「なるほど……」
「役目、ご苦労だったな。感謝する」
「いえ。私はただ、書状を運んだだけですので」
でも感謝して貰えることは素直に嬉しかった。
きちんと無事にお役目を果たせた事に嬉しく思いながらも、私は直ぐに屯所に戻る事にする。
私は本来、一人で外出を許されてる身ではない。
もし遅くなってご迷惑をおかけしてしまえば、皆さんに申し訳が立たなくなってしまう。
「では、山口さん。私はこれで失礼します」
「ああ、気を付けて帰れ」
斎藤さんに頭を下げると、私は直ぐに急ぎ足で屯所に続く道を歩き出した。
だけども、日が落ちるのは早く、歩いては真っ暗になると慌てて走り出す。
「はあ……はあ、はあ……」
帰り道は迷うことなく帰れた筈だった。
だけども、屯所に辿り着いた時にはもう完全に日は暮れてしまっていた。
(……土方さんに、叱られたりしないよね……?)
遅くなってしまったことに、叱られたらしないだろうか。
そんな不安を抱きながらも、きちんと書状を渡したという報告をするために土方さんの部屋へと向かった。
「土方さん、雪村です。ただいま戻りました」
「ああ、入れ」
「……失礼します」
ゆっくりとふすまを開け、部屋に足を踏み入れた私は直ぐに文机にうずたかく積み上げられた書類を見て絶句してしまった。
「ご苦労だったな。斎藤の様子はどうだった?」
「私から見たら、以前とお変わりない様子でした」
「そうか、そりゃ何よりだ」
なんだか、土方さんの機嫌が昼間よりも悪くなっている。
それに気が付いた私は、もしかしたら帰ってくるのが遅くて機嫌が悪くなられているかもしれないと思い、慌てて土方さんへと頭を下げた。
「あの、申し訳ありませんでした!」
「何だ?いきなり……おまえまさか、書状を届ける途中で何かへまでもやらかしたのか」
「いえ、それはないです!」
「じゃあ、なぜ今、謝った?」
「えっと、土方さんの機嫌が悪いようなので……もしかしたら、帰りが遅くなってしまったことに怒っていらっしゃるのかと思ってしまい……」
しどろもどろと私が答えると、土方さんは呆れたようにため息を吐いた。
「はあ……」
そのため息は気抜けたようなものであり、私は恐る恐ると土方さんの顔を見た。