第9章 修羅【土方歳三編】
皆さんのお役に立てる。
それだけでも充分嬉しいのに、私でしか出来ない役目だということに喜びはましていく。
「こいつが地図だ。これを見ながら行きゃ、迷子にはならねえだろ」
「はい。ありがとうございます」
土方さんから地図を受け取ってから確認した。
すっきりとしていて見やすい地図であり、これならば迷子になることも無く辿り着けそう。
「では、早速行ってきます」
私は勢いよく土方さんに頭を下げると、勇み足で部屋を出ていこうとした時である。
「おい、手ぶらで行ってどうするんだよ。届け物だっつっただうろが」
「……あっ!すみません!」
「ったく、久々の外出だからって、浮かれ過ぎだぜ。そんな調子で、大丈夫なのか?」
「だ、大丈夫です」
少しだけ土方さんは私へと心配そうな目を向けてくる。
さっきはお役目を貰えたからと、喜びすぎてしまい大事な事を忘れていた。
それが恥ずかしくなってしまう。
「……これが斎藤に渡す書状だ。浮かれて、落としたりするなよ」
「気を付けます。あとは……何か言伝などはありますか?」
「特にねえ。必要な事は、全部書状に書いてある」
「わかりました。それでは、行ってきます」
土方さんから書状を受け取ると、斎藤さんがいる天満屋へと向かう為すぐに部屋を出た。
浮かれて落とさないように……そう自分に言い聞かせながらも、廊下を歩いていた時にふと思った。
私一人で外に出ても大丈夫なのだろうか。
今まで、私が外出する時には誰かかならず一人は私の事情を知っている隊士の方が傍にいた。
(それに私、一人なんかに任せても大丈夫なのかな……)
そう思ったけれども、土方さんは私に任せてくれたんだ。
今は土方さんに預けられた仕事を果たそう、そう思いながら廊下を歩き出した。
「書状は懐に入れて……よし。あとは地図を見ながら天満屋に行くだけ」
土方さんに貰った地図を手にしてから、私は道を確認する。
「えっと……まずは、ここの通りを通って……」
今、よく見れば屯所から目的地まではかなりの距離がある。
冬の季節である今は、急がなければ直ぐに日が落ちて夜になってしまう。
日が落ちるまでに辿り着き、直ぐに戻ってこなければいけない。
なら、歩くよりも走った方がいいかもしれないと考え、私は直ぐに走り出した。