第9章 修羅【土方歳三編】
「……雪村君たちは、隊士ではありませんよ?」
「隊士じゃねえが、ずっとここにいるんだ。似たようなもんだろうが」
二人の鋭い視線が、しばしの間ぶつかり合う。
重苦しい空気に息苦しさを感じていれば、やがて山南さんが小さく息をつく。
「……相変わらず君は、優し過ぎますね。いいでしょう、ここは引いてあげます。ですが、覚えておいてください。もしこのまま、変若水の副作用を抑える術が見つからなければーー新たに羅刹となった藤堂君も、血に狂って苦しむこととなるのですよ」
山南さんの言葉に、私は思わず目を見張る。
羅刹となった平助君は、血に狂う事になる事を忘れていた。
だけど、山南さんの言葉に賛同は出来ない……私たちの血で必ずしも副作用が抑えられるとは限らないのだから。
山南さんは言葉を残すと、そのまま部屋を出て行った。
彼が居なくなった途端、息苦しさから解放されて思わず深呼吸をしてしまう。
「……大丈夫だったか?」
「あっ……はい。ありがとうございました」
「本当に、ありがとうございました……」
「礼には及ばねえ。俺は、山南さんに隊規を守らせただけだ。……前は、俺にあんなことを言わせるような人じゃなかったんだがな」
土方さんの言葉に、私は何も言えずに視線を畳へと下ろした。
ここ最近の山南さんはどうも様子がおかしく、まさかこんな行動を取るとは思わなかった。
以前のあの人ならば、私たちに刀を向けることはなかったはず。
なのに今は、研究の為と称して私たちに刀を向けて血を取ろうとしたのだ。
(まさか、あんな行動をするなんて……)
手にしていた刀を見ながら眉間に皺を寄せる。
だけど、山南さんがあんな行動を取ったのはきっと私たちのせいだ。
「申し訳ありません、土方さん」
「……どうした?いきなり。おまえが詫びることじゃねえだろうが」
「元といえば、風間が羅刹隊を全滅させたせいだと思います……。恐らく、風間は私たちをまた狙って屯所を襲撃したと思いますから……」
無言で、私の言葉を聞いていた土方さん。
だけどやがて彼は、言葉を吐いた。
「……おまえ、何か勘違いしてねえか」
「……勘違い、ですか?」
「あいつらは薩長の一味?つまり、俺たちの敵ってことだ。敵が来たら、死力を尽くして戦うのは当たり前だろうが」
「……敵」