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君ノ為蒼穹に願ふ【薄桜鬼真改】

第9章 修羅【土方歳三編】


「……まさか、土方君の酌を受けることになるとは思いませんでしたわね」
「そう言うなって。俺たちはあんたみてえに学があるわけじゃねえから、理解するのに時間はかかったが、ここに至って、ようやく気付いたんだよ。あんたが言ってたことが正しかったってな」

土方さんの言葉に、伊東さんは怪訝そうにしていた。
そして先程注がれた盃を疑わしそうに見ながら、また土方さんへと視線を向ける。

「このお酒に毒が入っている、なんてことはないでしょうね?」
「何だ?信じられねえか。それじゃ……」

土方さんはそう言って、自分の盃にお酒を注ぐとそのまま飲み干して見せた。
毒なんて入っていないと、伊東さんに証明する為に。

「……どうだ?毒なんて入っちゃいねえだろ」
「失礼なことを申し上げてしまったわね。それじゃ、私も……」

毒が入っていないと確信した伊東さんは、盃に口をつけてお酒を飲み始めた。
そして私は、飲み干したぐらいでまた伊東さんの盃にお酒を注ぐ。

「そういえば、雪村君とは久しぶりに会いますわね。お元気だったかしら?」
「は、はい……。変わらずに元気にしています」
「あら、そうなのね。元気ならいい事ですわ」

なんとも言えない気分になる。
今から私は、彼にお酒を注いで酔わせて暗殺する際に抵抗が出来ないほどに泥酔させるのだから。

そうして、伊東さんはお酒が進むにつれてどんどん上機嫌になった。
私はそんな彼を複雑な気分で見ながら、お酌をしていく。

「……そもそも、かの会沢正志斎先生が【新論】を著し、外夷の危機を訴えたのがいつなのかご存知?四十年前ですわよ、四十年前!!その間、幕府が一体どれだけの改革を成したというのです?」
「確かに、伊東さんの仰る通りですな。幕臣の方々は、腰が重くていかん」
「そうでしょう、そうでしょう?一説には、幕府は蝦夷地を担保にして異国から借金をし、軍の洋式化を進めているとか……」
「何と!それは本当ですかな?」
「ええ、確かな筋から得た情報ですわ。一度西洋に売り渡した領地は、戦に勝って取り戻すしかないというのに。あんな外交音痴たちに国を任せていたら、早晩、日本は西洋の植民地となってしまいますわ」

私は政治やその為諸々には詳しくない。
でも、伊東さんは先程から幕府を貶すことばかりを言っていた。
彼はきっと幕府の為には戦わないんだろう……それだけは分かる。
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