第9章 修羅【土方歳三編】
「私も、千尋と同じ気持ちです。ですので、お願いします……」
「……決意は固いようだな」
近藤さんは真剣な表情で私たちを見ていた。
そして彼は、厳しい表情のままで私たちに問いかけてくる。
「ならば、どうする?この一件において君たちは、何をしたいんだね?」
「私は、伊東さんの対応を手伝います。自分で言うのもあれですが、伊東さんはかなり私を気に入っていましたし、接待ぐらいならば私にも出来ます」
そう言うと、近藤さんは私をじっと見ていた。
まるで私の決意を確かめているようで、私も彼をじっと見つめる。
しばらくして、彼はまだ固い表情のままだけで小さく微笑んだ。
「……よかろう、ついて来たまえ」
「はい!」
「それで、千鶴君の方はどうする?」
近藤さんが、千鶴に何を手伝いかを聞いた。
だけど私は最初から千鶴に今回の仕事は手伝って欲しいとは思っていない。
「千鶴は、今回の仕事は関わらない方がいい」
「え、なんで……!?」
「平助君の説得に行くなら、人を斬られる場面を見ることになる。伊東さんの接待に行くなら、殺される人を見送ることになる。どっちにしろ、後味が悪い……千鶴にはそんな思いをしてほしくないの」
「でも……!」
「お願い、千鶴……」
千鶴には二度と嫌な経験をさせたくない。
人を殺される場面を見たり、死に行く人を見送らせる事はしたくないのだ。
私は【お願い】とまた呟きながら、千鶴の肩を優しく掴んだ。
その手は僅かに震えていれば、千鶴は眉を下げながらも小さく頷いた。
「……分かった」
「……ありがとう、千鶴」
そうして千鶴は屯所で待機となり、私は伊東さんの接待を手伝うこととなったーーー。
伊東甲子太郎暗殺実行の夜。
近藤さんは伊東さんを別宅へと招き、彼はその招きに応じて別宅へと姿を現した。
「……今日は、一体どういう風の吹き回しかしら。何か、私に聞きたいことがあると仰っていましたけど?」
「これは、伊東さん。よく、いらしてくれました。いや、話というのは他でもないのです。揺れ動く昨今の政局を見るにつけ、我々も今後の身の振り方を真剣に考えねばと思うようになりましてな……」
「近藤さん、堅苦しい話は後にしねえか。まずは、口の滑りを良くしねえとな」
土方さんはそう言いながら笑い、伊東さんの盃にお酒を注いでいく。