第9章 修羅【土方歳三編】
「……すみませんでした。取り乱してしまって……」
「……いや、君の立場なら、ああ言うのが当たり前だ。平助は、皆に慕われているのだな」
「はい」
近藤さんは眉を下げながら大きく息を吐いた。
そして、平助君や御陵衛士と相まみえる事になる原田さんと永倉さんへと振り返る。
「永倉君、原田君。局長ではなく、近藤勇として頼む。……平助を、見逃してやってくれ。できるなら、隊に戻るよう説得してほしい」
「ああ、わかってるさ」
「……あいつの命が、俺たちの腕にかかってるってわけだな。責任重大だ」
そんな彼らの話を聞きながらも、私には何か出来ることがないだろうかと悩んだ。
「……これで皆、自分の役割は確認したな?もし質問があるなら、今のうちに言っておいてくれ」
「近藤さん、待ってください」
私がそう言うと、近藤さんは少しだけ驚いた表情で私の方を振り返った。
「私にも指示を出してください。何か、手伝わせてください」
「……私にも、お願いします。何か手伝わせてほしいです」
千鶴も同じ気持ちのようで、少しだけ緊張した面持ちで近藤さんにお願いした。
すると、近藤さんは少し困ったように難しい表情をされる。
「手伝うと言っても……、今回の仕事は池田屋や禁門の変の時とは違うんだよ。君たちは、こんな役目には関わるべきではない」
今回は池田屋の時や禁門の変とは違うとは分かっている。
巡察でもなければ討ち入りでもなく、かつての仲間であった人を暗殺する仕事。
(それでも、私は手伝いたい)
汚れ仕事になっても、新選組の為に役立ちたい。
そう思った私は近藤さんを真っ直ぐに見つめた。
「迷惑は絶対にかけません。ですので、お願いします……手伝わせてください」
「……あのな、今回のは使いでも遊びでもねえんだ」
「一時は同志だった奴らの暗殺だ。……万が一のことがあれば、平助だって斬ることになるかとしれねえんだぜ?」
「それは、私も千鶴も重々承知しています」
今まで、新選組でずっと過ごしていた。
そして皆さんには沢山お世話になっているのに、私だけ裏の仕事に関わらずに平然と過ごすのは嫌だ。
「ずっと、新選組で過ごしていたんです。勝手に思っているだけですが、新選組の一員としてこれまで皆さんのお手伝いもしてきました。それなのに、裏の仕事は手伝わない、目を背ける。そんなことはしたくないんです」