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君ノ為蒼穹に願ふ【薄桜鬼真改】

第9章 修羅【土方歳三編】


「三浦の警護は、斎藤に頼むことになる。事情を知らねえ隊士連中から見ると、斎藤は、伊東派から出戻りしたようにしか見えねえだろうからな」
「わきまえています。ほとぼりが冷めるまで、俺はここにいない方がいいでしょう」

確かに、事情を知らない隊士さん達は斎藤さんを良くは思わないはず。
それならほとぼりが冷めるまで、新選組にいないのは賢明の策かもしれないけど、それはなんだか悲しい気分になってしまう。

(斎藤さんは、新選組を元々裏切ったわけじゃないのに……)

そう思っていれば、土方さんは【前振りはここまでだ】と呟いてから、言葉を途切れた。
その場にいた皆さんは、土方さんの言葉をただ静かに待っている。

「伊東甲子太郎ーー。羅刹隊の存在を公にするだけでなく、近藤さんの命まで狙ってるときた」

まるで、土方さんは独り言のように伊東さんの名前を呟いた。
その表情は厳しいものであり、何故か背筋がひやりと冷たくなっていく。
すると土方さんは、底冷えするような冷たい声で言い放った。

「残念なことだが、あの男には死んでもらうしかねえな」
「う……む……。止むを得まい……」

副長の指示を局長が認めた。
それはつまり、伊東さんを殺すことを新選組の総力をたげて遂行するということ。

「まず、伊東を近藤さんの別宅に呼び出す。接待には俺も回る。その後、伊東の死体を使って御陵衛士の連中を呼び出し……斬る。実行隊は……、新八、原田。おまえらに頼む」
「土方さん、僕は誰を斬ればいいんですか?」
「おまえは寝てろ。相変わらず変な咳をしてやがるし、体調も悪いんだろ。斎藤も、まだ数日はここにいるから、相手をしてもらえ」

土方さんがそう指示をすると、沖田さんは不機嫌そうに顔を歪ませていた。

「近藤さんを殺そうとしてる人を暗殺するのに、僕に見せ場をくれないつもりですか?……怨みますよ、土方さん」

これから、元同志である伊東さんを殺す。
その事実はかなり重いものでもあるのに、幹部の方々はあまりにも平然としているので驚いてしまう。

(でも、仕方ないことなのかな……)

近藤さんの暗殺計画を練られているのなら、新選組としては黙っていられない。
しかも、伊東さん達は羅刹隊のことを公にしようとしているのなら、尚更生かしておけないのだと思う。
だけど、知っている人が殺されるというのはかなり重いことだった。
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