第9章 修羅【土方歳三編】
「新選組の仕業ってことにしてえ奴もいるだろうしな。つっても、俺たちが何も聞かされてねえ以上、新選組が手を下したってことはねえよ」
「山南さんが勝手に動いたんだとしたら、別ですけどね」
沖田さんの発言に、その場の全員が黙り込んでしまった。
「……山南さんは、大丈夫なのか?俺たちから見ても、最近の夜の巡察はやり方がひでえぜ……」
最近の山南さんは、確かに夜の巡察が酷い。
前もそうだったけれども、不逞浪士を見つけたら遺体が判別出来ないほどに切り刻んでいたりとしていると聞いた。
夜の巡察を考えれば、山南さんがそういうことに手を染めていない。
私たちはそう言い切れない状態であり、前に会った時は目が酷く乾いていた。
血に飢えている獣のような、目の乾き……。
「俺らの方で、気を付けるしかねえな。羅刹隊の存在を表に出すわけにゃいかねえし」
永倉さんがそう呟いた時だった。
ふすまが開き、廊下から近藤さんと土方さんが入ってくる。
「……その件についてだが」
「お、近藤さんに土方さん。ってーー」
「斎藤!?おまえ、何でここにいるんだよ!?」
自分の目を疑ってしまった。
何せ、土方さんと近藤さんの後ろには新選組を脱退して御陵衛士となったばすの斎藤さんがいるから。
「おや、斎藤君じゃないか、久しぶりだねえ。御陵衛士のほうはどうしたんだい?」
「そ、そうじゃなくて、井上さん……!」
「御陵衛士とは、交流を禁じられているのでは……!?許しても、いいんですか!?」
土方さんが、御陵衛士との交流を禁じていたはず。
なのに斎藤さんは新選組の屯所にいて、私たちはその事に驚いてしまう。
すると、土方さんは私たちの話を聞いてうるさそうに顔を顰めていた。
「あー、ごちゃごちゃうるせえな。許すもなにも、本日付けで斎藤は新選組に復帰するんだよ」
「……え?」
「へ?·····いや、ちょっと待った土方さん。俺たちとしちゃ、うれしい便りだけどよ。そんじゃ御陵衛士っつうか、伊東派の立場はどうなるんだ?」
「まず、そこから訂正を。……俺は元々、伊東派ではない」
「斎藤君はな、トシの命令を受けて、間者として伊東派に混じっていたんだ」
「間者·····」
近藤さんの説明で、ようやく私たちは事態を理解した。
よく【敵を騙すにはまず味方から】と言うけど、まさかその通りをしていたなんて·····。