第9章 修羅【土方歳三編】
「その坂本龍馬だが……暗殺されたらしい」
「本当かよ?一体、誰がやったんだ?」
「坂本は、敵が多いしな。幕府側も薩長側も……個人的な恨みなら紀州の三浦って奴とも揉めてたよな」
「あはは。実は、僕らが一番疑われてるんじゃない?……どうせ他の奴に殺されるんなら、僕が斬っておけば良かったなあ」
坂本龍馬が暗殺されたと井上さんの口から聞いて、少しばかりだけど驚いた。
大政奉還をした際には幕府側からも、薩長側からもかなり恨まれていたと聞いている。
(暗殺されるかもしれない、町の人たちの噂話で聞いていたけど……)
まさか本当に暗殺されてしまうなんて。
それにしても、沖田さんは相変わらず物騒だなと思っていれば永倉さんが呆れたような表情をされていた。
「おいおい、冗談に聞こえねえよ。つうか、俺らは手を出すなって言われてただろうが」
「皆も知っての通り、私たちは勇さんから坂本龍馬に手を出さないよつに再三言われていた。だけど、世間はそう見てけれてはいないようでね。……何でも、現場に新選組隊士の鞘が落ちていたらしい。今、取り調べの問い合わせがきているよ」
「鞘って……そんなの証拠になるんですか?」
「それに、鞘だけで新選組の隊士の方だって、何故分かるんでしょうか?」
鞘ならば色んな武士である方や浪人、とにかく色んな方が持っている。
それなのに、鞘だけで新選組の隊士だなんて分かるものなのだろうか。
「どう考えても、単なる言いがかりだろうよ。で、誰の鞘だって言ってるんだ?」
「……それがね、君なんだよ。原田君」
「え!?」
「原田さんの!?」
「何だ、左之さんが斬ったんだ?せっかくだから、僕も呼んで欲しかったなあ」
「馬鹿言うんじゃねえよ。俺の鞘は、ここにあるんだぜ?作り話なら、もっと上手くやれってんだ。ったく……」
「私も皆も、最初から君を疑ってなどいないよ。……だが、そう言ったところで世間が信じてくれるかどうか。こんな噂が流れるところを見ると、先方も、犯人をしぼりきれずにいるんだろうし。紀州藩の三浦休太郎が、新選組に依頼して暗殺したなんて話もあったよ」
三浦と言えば、先程永倉さんが名前を出した人。
個人的に坂本龍馬と揉めていたらしいし、犯人だと疑われているのだろう。
だけど、何故新選組なのだろう。
原田さんの鞘はちゃんとあるし、誰が悪意を持ってそんな噂を流しているのかも。