第9章 修羅【土方歳三編】
私の言葉を聞いた土方さんは、少し考える素振りを見せた。
そしてゆっくりと口を開くと私へと言葉を投げかけてくる。
「どう見えてんのか知らねえが、俺は自分に出来る仕事しかしねえ。俺じゃ無理だと思えば、できる奴に作業を割り振る。それも含めて俺の仕事だ。どんなに足掻こうとできねえことはできねえんだ。……当たり前だろ?」
「……はい」
土方さんが何を言いたいのか、分からなかった。
真剣な声音で何かを伝えようとしているのかもしれない。
でも今日の私はそれを察する事が出来なくて、少しだけ首を傾げてしまう。
「……だからおまえも、自分の仕事を増やそうとしないで、できることだけしてりゃいい」
「……でも」
「おまえと、お前の姉は、俺たち新選組の意地がかかってる存在だってことを、意識したことねえだろ?」
「……意地、ですか?」
私や千鶴は新選組の意地がかかっている。
そう言われても、どういうことなのかわからないと思っていれば、彼は私から視線を逸らしながら言葉を続けた。
「要するに、おまえ達のことは俺たち新選組が守ってやるから、心配すんなって言ってんだ」
「……え」
「なんて顔してんだよ、おまえ。そんなに俺が信用できねえか?」
「そ、そういわけじゃないんです!」
「なら大船に乗った気でいろ。余計な心配してんじゃねえ」
「……土方さん」
彼の言葉に思わず目元に涙が浮かびそうになる。
ずっと自分は役に立っていない、迷惑になっていると思っていた。
なのに彼の言葉はすんなりと、そんな気持ちを消し飛ばしてしまう。
「俺の話はこれで終わりだ。引きとめちまって悪かった」
それだけを言うと、土方さんは湯呑みを手にしてから一口だけお茶を飲むとお仕事を再開した。
「……ありがとうございます、土方さん」
嬉しかった。
土方さんの言葉だけで、こんなにも悩みが消え去ってしまうなんて……。
そう思いながら、深く頭を下げると土方さんは何かを思い出したように言葉を呟く。
「あと、おまえは自分が役に立ってねえとか言ってるけど、そうでもねえからな」
「え?」
「お前が無理矢理、休ませてきたり飯を食わせてくるようになってから、身体が限界を感じる事が少なくなった。だから、感謝してる。ありがとうな」
感謝の言葉に嬉しくなりながら、私は頭を下げて土方さんの部屋をあとにした……。