第9章 修羅【土方歳三編】
「大丈夫です!聞いても逃げることもしませんから、教えてください」
「……それなら適当な野菜で、炊き合わせでも作ってくれ」
「炊き合わせ……。分かりました!美味しく作って、土方さんを必ず唸らせてみますから、覚悟しておいてくださいね!」
炊き合わせなら何度も作った。
材料を別々に煮込むのはかなり手間がかかるけど、土方さんがきちんと食べてくれるのなら、その手間も大したことじゃない。
「ああ、期待してるぜ。最近おまえは料理の腕を上げてみるみてえだしな」
「そう、ですか……?」
「ああ。手間のかかる料理は屯所じゃ滅多に食えねえが、おまえなら大丈夫だろ」
まさか褒められるなんて。
驚いてしまったけれども、それが嬉しくてつい口元が緩みそうになるけど慌てて私はそれを押し止めた。
「きっと、土方さんが満足いくものを作ってみせます。それに秋は美味しい季節の野菜が増える時期ですから」
「素材じゃねえんだよ。江戸の味で作ってくれ」
「江戸の味、ですか……?」
「ああ」
また土方さんは穏やかに微笑んでいた。
彼のこんな穏やかな笑顔は珍しいから、思わず驚いて見入ってしまいそうになるが、慌てて少しだけ目線を逸らす。
とりあえず、土方さんが希望してくれたのだ。
江戸の味で彼が唸るような炊き合わせを作ってみせようと気合いが入った。
早速、どんな野菜で炊き合わせしようか勝手場に行こうと思いながら立ち上がる。
「では、失礼します」
頭を下げてから部屋から出ようとしたときだ。
「おい、雪村」
「はい?」
「おまえに気を遣わせちまうくらい、俺は疲れてように見えるか?」
「……え?」
「おまえは、何時も【休んでください】って言って俺を休ませようとするだろ?そんなに、俺は疲れてるように見えるのか?」
「……それもありますが、私はいつも皆さんのお役には立てない。剣の腕が皆さんのようにはありませんし、なにか大きくお役に立つような才能もありません。それどころか、皆さんには迷惑ばかりかけてます」
何時も皆さんに助けてもらってばかり。
何かお役に立ちたいと思っても、私のような小娘が何ができるのかわならない。
出来ることなんてかなり限られてしまっている。
「役たたずだからこそ、小さいことでも何かしたいんです。まあ、一番の理由は土方さんが無理されるのがほっとけないというのとあるんですけどね」