第9章 修羅【土方歳三編】
お仕事がずっと忙しいのか、彼はまた最近朝食を食べなかったり夕食を抜いたりしている。
食事をしないのは、身体には悪いからきちんと食べて欲しいって言っているのに聞いてくれない。
「あとで、お茶とご飯と味噌汁とか持っていこうと思ってるの」
「そうだったんだ。じゃあ、後は私に任せて行ってきていいよ千尋」
「うん、ありがとう」
そして、私は勝手場に向かって残っていた白米とお味噌を器によそい、お茶も用意してからお盆に載せるて土方さんの部屋へと向かった。
「土方さん、雪村です。お茶をお持ちしました」
「入れ」
「失礼します」
短い返事が聞こえてきて、私はゆっくりとふすまを開けた。
そして『お食事も持ってきました』と言おうとした口が、思わず閉じてしまう。
「悪いが、適当なところに置いてけ」
「……はい」
何時ものように口煩いと言われても、お食事を取ってもらおうとしたけど、言葉が喉から出てこなかった。
その理由は、土方さんがいつもきっちりと結っている髪の毛を下ろしていたから。
見慣れない彼の髪を下ろした姿に、驚いてしまって思わず、じっと見てしまう。
すると私の視線に気が付いたのか、土方さんは機嫌悪そうな目で私を見てきた。
「……何してる。他に用でもあんのか?」
「い、いえ……特にはなにも」
「だったらさっさと戻ってろ。おまえの相手をする暇はねえ」
「……あの、土方さん。髪の毛邪魔じゃないですか?」
「確かに邪魔だな。結うのが面倒だったんだが……今はその一手間が惜しい。片付けなきゃならねえ仕事が、それこそ山のようにあるんだ」
髪の毛が邪魔なのか、土方さんは何度も鬱陶しいそうに顔にかかる髪の毛を払っていた。
「土方さんが、お嫌じゃなければ私が結いましょうか?」
「……人に髪いじられせんのは好きじゃねえんだよ」
「そう、ですか……」
確かに、髪の毛を人に触られるのが嫌という人はいる。
土方さんもそうなんだろうと思い、余計な事を言ってしまったなと思っていると土方さんはため息をはきながら、私へと視線を向けた。
「だが……その気遣いだけはもらっとく。こういうもんはな……」
彼は私から視線を逸らすと、瞬く間に手早く髪の毛を束ねていた。
「ふう……これで仕事に集中できる」
土方さんは器用なんだなあ。
そう思いながらも、私は思わずはっ!として目を見開かせた。