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君ノ為蒼穹に願ふ【薄桜鬼真改】

第9章 修羅【土方歳三編】


「褒めてもらってうれしいんですが、本当は、死ぬほど緊張してたんです。……ほら、見てください。話してる間中、ずっと手が震えていたんです……」

そう言って、相馬君は震える手を差し出して見せた。
すると千鶴は彼の手に指先で触れて、その途端相馬君は目を大きく見開かせる。

「本当。こんなに震えて……実はすごく緊張してたんだね」
「いや、その震えは別の……」
「え?」
「……なんでもないです。それは、その……先程の緊張が続いているだけですから」

これはもしかして、私はおじゃま虫というものなんだろうか。
二人を見ながらそう思った私は、これ以上ここに居るべきじゃないと判断してからゆっくりと立ち上がった。
すると千鶴と相馬君は不思議そうに私の方へと視線を向ける。

(人の恋路を邪魔するものじゃないよね……。本当は千鶴を男の人と二人っきりにするのは嫌だけど、相馬君ならいいかもしれない)

最初は相馬君でも千鶴と二人っきりなったり、近い距離にいたらいい気分じゃなかった。
でも、命懸けで千鶴を守ってくれたりとした彼ならば千鶴を任せてもいいかもしれない。

「私はおじゃま虫みたいだから、出てるね」
「な!?な、何を言ってるんですか雪村先輩!」
「おじゃま虫ってなにいってるの!?千尋!」
「ふふ、二人とも顔が真っ赤。私は、土方さんや近藤さんにお茶を持っていくから、二人でどうぞごゆっくり」
「ほ、本当に何を言っているんですか!?」

二人揃って顔を真っ赤にさせている。
こんなにも二人揃って分かりやすいなんて、見ていたら少し面白い。
そう思いながら私はふすまを開けてから、閉める前に部屋へと顔を覗き込ませた。

「じゃあ、ごゆっくり」

ふすまを締めた時、千鶴と相馬君が私の名前を叫んだのは聞こえたけれどもそれに気付かないふりをする。
これから二人はどうなるんだろう……そう思いながら勝手場へと向かうのだった。

❈*❈*❈*❈*❈

ー慶応三年・九月ー


夏の暑さも落ち着きだし、紅葉が色づき始めて秋の気配を感じるようになったある日のこと。
朝食も終わり、私と千鶴が幹部の方々にお茶を配っていた時。

「あれ……?土方さん、いない?」

千鶴は辺りを見渡しながら、土方さんが居ないことに気がついてぽつりと呟いた。

「うん。朝食は食べて欲しいって言ったけど……来られなかったなあ」
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