第9章 修羅【土方歳三編】
本当は、父様が見つかれば千鶴と共に新選組を去るつもりだった。
また三人で静かに江戸で生活しよう、そう思っていたけれども……。
「だけど、今はそうじゃない」
「新選組で過ごすうちに、変若水と羅刹について知って……父が変若水に関わりを持つと、知ってしまったから。今の私には……私たちには、父が何を考えているかわからない」
「何故、変若水という薬の実験をしていたのか……なんで羅刹を生み出したのか……」
「だから会って、話して、いろいろなことを説明してもらって……この変若水をもたらしたことに、責任をとってもらいたい。……今ではそう思っているの」
父様は何故、変若水を作り羅刹を生み出したのだろう。
しかも鬼と似ていて異なる羅刹というのもを、そう何度も思った。
何か理由があるのかもしれない。
それに父様は、あの時変若水を家で作っていたと思う時に私が何を作ったか聞いたら『まだ知らなくていい』そう私に言った。
まだ、と言うならば何時かは私に話すつもりだったはず。
(その理由も聞きたい……)
私たちが黙り込んだところで、今まで静かに話を聞いていた山南さんが顔をあげた。
そして、相馬君を見つめながら確認するかのように、口を開く。
「さて、相馬君。今話した内容がどれだけの重みを持つのか理解できますか?」
「はい。もしこの話が外部に漏れれば、新選組が揺らぐような事態になってしまう。だからこそ雪村先輩たちも、今まで固く口を閉ざして来られたんですね。……納得しました」
「その認識は正しいですが……。事は、新選組だけの問題ではありません。考えてもみてください。会津藩預かりの新選組が、人を化け物に変えて戦わせる研究を続けていたーー。人々がそれを知ってしまえば、幕府に対する信頼は大きく失墜する。そんな事を許す幕府に義などない、と諸藩が立ち上がれば、それを止める手などないでしょう」
私たちが羅刹を知った時、土方さんたちはかなり警戒していた。
そして私たちを殺すかどうかを悩んでいたのは、幕府のためでもある。
最初は殺されると思った時は理不尽だと思った。
でも考えてみれば、土方さんたちが私たちを殺そうか悩んだのも無理はないと分かる。
「……今、あなたが握ったのは、そんな情報だということです」
「……幕府が……揺らぐ……」