第9章 修羅【土方歳三編】
「……お前、変に律儀な奴だな」
彼は、彼らの事情があるから私を助けたと言う。
でも助けてくれたのには変わりないのだから、お礼はちゃんと言いたかった。
もし彼に助けてもらえていなかったら、今頃私はどうなっていたか分からないのだから……。
「で?お前は礼を言うだけのために来たのか?」
「それだけではないです。ちゃんと土方さんに休んでもらう為に来ました」
「……やっぱりな。だいたい、お前が茶を持ってきて夜遅くに俺の部屋に来る時は、大抵そうだからな」
彼はうんざりしたように言いながらも、私が持ってきたお盆の上に置かれた湯呑みを手にした。
「ちゃんと休むから、お前もさっさと部屋に戻って休め。寝るのが遅くなって、寝坊でもしたらしらねえからな」
「子供じゃないんですから、ちゃんと起きれます!」
「俺からしたら、お前はガキだ」
そう言いながら、彼は口元を緩めて微笑んでいた。
時折だけども、土方さんが見せるこの笑顔が私は好きだーー。
❈*❈翌朝❈*❈
「おはようございます、皆さん」
「おはようございます」
あの騒動が起きた翌日。
私と千鶴は一緒に広間へと向かうと、そこには井上さんたちの姿があった。
「ああ、おはよう、雪村君たち。昨夜は、よく眠れたかい?」
「あ、えっと、その……はい」
「はい……たぶん」
「……無理はしなくていいよ。寝不足なのは、顔を見ればわかるからね」
私たちは昨日、なかなか眠ることが出来なかった。
あんな事があったばかりだったのか、眠気はなかなか来なくて寝つけたのは夜明け近くの時。
千鶴も同じだったらしく、二人して寝不足になっていた。
「あの……山崎さん。島田さんの様子はどうだったんですか?」
昨夜、風間千景によって攻撃された島田さんは意識を失っていた。
それからどうなったのかと思い、山崎さんへと聞けば彼は微笑みを浮かべる。
「打ち所が悪くて、気を失っただけだ。怪我は、打ち身程度で大したことはない。今後の隊務にも、特に支障はないだろう」
「……良かった」
「島田君も、言っていたよ。役に立てず申し訳なかった、とね」
「そんな事ありません!私こそ、島田さんに謝らなくてはいけないのに……」
あの夜、私が風間千景の元に向かうと言っていなければ彼は怪我をしなくて済んだのだから。
そう思っている時だった。