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君ノ為蒼穹に願ふ【薄桜鬼真改】

第9章 修羅【土方歳三編】


私たちも初めてここに来た頃、こうやって土方さんに似たような事を言われたのを思い出す。
あの時『逃げれば斬る』そう言われたのが、今では懐かしく思ってしまう。

「それでもいいって誓えるか?」
「……誠の旗に、誓います」
「誠の旗、か。……そんなことを言ったのは、おまえが初めてだ。……忘れるんじゃねえぞ、今の誓いを」

相馬君への羅刹についての説明が終わり、私たちは広間から出ていた。
廊下に出れば肌を刺すような冷たい風が頬を撫でていく。

寒いと感じながら、千鶴と相馬君と共に歩き出そうとした時だった。
広間からは土方さんと近藤さんも出てきて、私たちとは反対方向へと歩いていく。

「トシはまた仕事か?」
「ああ。溜まってる書類があるからな」
「……今日はあれだけの騒ぎがあったんだ。少しは休んだらどうだ」

そんな会話が聞こえてきた。
土方さんはまた、夜遅くまでお仕事をされるつもりだと知り、私は少しだけ眉を下げる。

(今日は来客もあったり、風間千景の襲撃があったりしてお疲れのはずなのに……)

ちゃんと少しは休んでほしい。
そう思った私は、彼を休ませるためにお茶を淹れようと決めた。

「千鶴、先に戻ってて」
「何処かに行くの?」
「土方さんに、お茶を持っていこうと思って。今日は迷惑をかけたり、守ってもらったりとしてるからお礼も兼ねて」

そして言って、私は勝手場に向かうと直ぐにお茶を淹れた。
寒さもあるので身体が温まるようにと、少し熱めぐらいのお茶を淹れると、土方さんの部屋へと向かう。

(やっぱり、お仕事されてるんだ……)

彼の部屋の前に向かうと、行灯の光が揺れて彼の影もそれに吊られて揺れていた。

「土方さん、雪村です。入ってもいいでしょうか?」
「……入れ」

部屋に入ると、彼は文机に向い書類仕事をされていた。
そして視線だけを私に向けると、眉間に皺を寄せてからため息を吐く。

「お前、今日はあれだけの事があったんだ。さっさと部屋に戻って休め」
「それは、私の台詞でもあるんですが……」

ぼそりと呟いてから、私は土方さんに向き直ると深く頭を下げた。

「土方さん。今日は本当にありがとうございました……」
「あの時も言っただろう。別に礼を言われるような事はしてねえ。俺らには俺らの事情があってお前を助けたんだ」
「それでも、ありがとうございました」
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