第9章 修羅【土方歳三編】
「おまえには雪村たちを守れと命じていたが、それ以上関わるつもりなら、守るのはそいつらだけじゃなくなるぞ。新選組の闇に関わり、その秘密も守らなきゃなくなる。……おまえにその覚悟はあるか、相馬主計」
土方さんは相馬君の目を見据える。
彼に新選組の秘密を知る覚悟はあるのかどうか、土方さんは彼に問う。
すると相馬君は迷うことなく、土方さんを真っ直ぐに見ていた。
「……俺は全てを知った上で、新選組の一員でありたいです」
迷わずに告げた彼に、近藤さんたちは深く頷いた。
「教えてください。新選組の本当の姿をーー」
それから、相馬君は土方さんから新選組の闇である【羅刹】と【変若水】を教えられた。
説明されている間、彼は何度か表情を変えることはあったけど、土方さんの言葉を真剣に聞いていた。
「羅刹とは、元はただの人間が、変若水で変じた存在……」
「羅刹になった者は白髪となり、異常な力と再生力を兼ね備えた剣鬼と化す」
「……その研究に携わっていたのが、私と千尋の父である雪村綱道でした」
変若水と羅刹、その二つに関わりを持つ私たち。
全てを聞いた相馬君はかなり驚いているようで、目を見開かせていた。
「ではまさか、江戸で俺が貰った絵は……」
「その通り、羅刹を描いたものだ。あの時は驚いたよ、君がそんな物を持っていたからね」
「……それを描いた絵師さんも、羅刹のことを知っているんですか?」
「……ああ、知ってるはずだ。あいつーー井吹は、俺たちの古い馴染みだからな。おまえらが新選組に来る前の、浪士組って呼ばれてた頃のな……」
相馬君と初めて会った時。
土方さん達は羅刹を描いた絵師である、井吹さんという方の話題になった時にとても嬉しそうにしていたのを覚えている。
あの時、土方さんたちは井吹さんのことを知って安心していた。
だからその時は気づかなかったけれど、彼が描いていたのは【羅刹】の絵であり彼は新選組の秘密を知っている。
だけどその彼は今新選組にはいなくて、そして井吹さんという方の消息を知った時に、土方さんたちは安堵していた……。
(それはつまり、井吹さんという方が新選組から離れたのは皆さんの本意じゃなかった……)
「変若水、羅刹、鬼……。今の話はどれも、新選組の根幹に関わる内容だ。外に知られたら組織自体が揺らぐ。故に、口外したら容赦はしねえ」