第1章 始まり【共通物語】
でも、その松本先生は暫く前から京を離れているらしく帰りも何時になるか分からないとのこと。
「……少し、急ぎ過ぎたのも」
「そう、だね。手紙のお返事があってから向かえば良かったのかもしれないね」
突然訪ねるのは失礼だからと、事前に手紙を送ってはいた。
でも松本先生が京におられないという事は、手紙が届いていない可能性があるか、届く前に松本先生は京から離れたかもしれない。
「でも、これ以上江戸では待てなかったからね…」
私と千鶴は双子の姉妹である。
姉の千鶴とは江戸で、雪村綱道と言う父と三人で暮らしていた。
だがある日、父様は暫くの間、京の都へと行くことになり家をひと月、ふた月は離れると私達姉妹に話した。
千鶴と私は京の都は物騒と聞いていた。
だから、気を付けてと言えば父様は『安心しなさい。おまえ達が心配にならないように、京に居る間はできる限り手紙を書くよ』と約束してくれたのだ。
父様は約束してくれた通り、私達に手紙を送ってくれた。
私や千鶴が返事を書くよりも早く、父様の手紙は毎日のように届いた。
でも、父様の連絡が突如途絶えた。
「松本先生に聞けば、父様の居場所が分かると思ったのに……」
私達は父様を心配して、探すために京の都に来ていたが頼みの綱である松本先生はご不在。
どうしようと二人で途方に暮れてしまう。
「父様…大丈夫なのかな。京の都はあちこちから浪士が集まっていて、平穏じゃないって聞くもの」
「無理矢理、人々からお金を巻き上げる事もあるって聞くものね。侍という権力を笠に着て、暴力を振るう乱暴者達もいるって……。これだから、昔から侍は嫌い」
「……うん」
千鶴は良くない可能性を考えてしまっているみたいだ。
どんどん表情は暗くなっていて、気分が落ち込んでいるみたいで、今にも泣き出しそうな顔になっている。
「千鶴、あまり良くない可能性ばかり考えるでしょう?」
「……千尋って、なんで私の考える事が分かるの?心が読めてたり?」
「心なんて読めないけど、表情を見れば分かるの。だって私は千鶴の双子の妹なんだよ?ずっと一緒にいる訳だし、分かります」
クスッと笑いながら千鶴の額を指で突けば、千鶴は少し恥ずかしそうに笑った。
やっと笑顔が見れたことに安堵するけれども、千鶴はまた困った表情になる。
「……泊まる場所を探さないと」
「そう、だね……」