第9章 修羅【土方歳三編】
私は力が抜けて動かない足を叱責しながらも、すぐに千鶴の元に駆け寄り、千鶴も私の元へと駆け寄った。
そして私たちは思わず抱きしめあう。
「……良かった、千鶴。無事で……」
「千尋も、無事でよかった……」
お互い無事だったことに安堵した。
そして、ふと千鶴の後ろを見ればそこには血だらけになった相馬君が立っていることに気が付く。
着物は斬られたのか、ボロボロで血があちこちに付着している。
「相馬君!?」
「おいおい、相馬、お前怪我してるんだから安静にしとけって言っただろうが」
「す、すみません……」
相馬君の怪我はきっと、風間千景から千鶴を守るために負ったのだろう。
傷だらけになっても千鶴を守ってくれた彼に、感謝しかない。
彼は傷が痛むのか顔を少しだけ歪ませていた。
私は千鶴から離れると相馬君の元に向かい、深く頭を下げる。
「雪村先輩!?」
「ありがとう、相馬君。千鶴を守ってくれて」
「……約束しましたから。雪村先輩を守るって、貴方と東堂さんや斎藤さんと」
「……うん。本当にありがとう」
彼には感謝してもしきれない。
そう思っていると、相馬君は混乱した表情で山南さんを見ていた。
「あの……何故、死んだと聞かされた山南さんがいるのでしょうか」
「……あ」
そういえば、彼は山南さんが死んだと聞かされていた。
だから今、ここに山南さんが居ることに……。
「説明、するしかねえな。取り敢えず、先にお前は怪我の手当を受けてこい。話はそれからだ」
そうして、私と千鶴は怪我をした相馬君や他の隊士さんの手当をしてから土方さん達が待っている広間へと向かった。
これから相馬君は何故、山南さんが生きているのかを説明させるのだ。
出来れば関わらない方が相馬君の為。
だけど、山南さんを見た以上は関わってしまうのだ。
羅刹という人ならざる物と。
「……今回の奴らの襲撃は、伊東派が抜けて一時的に戦力が落ちたのを狙ってきたって考えるのが妥当だな」
「やはり、斎藤君や平助が抜けたのは痛い。今回は山南君が出てきて事無きを得たが……」
土方さんと近藤さんは相馬君へと目線を向けた。
「その代わりにこいつが、山南さんと会っちまったわけか……」
問い詰めるような鋭い視線で土方さんは相馬君を睨みつける。
だけど相馬君はたじろぐことなく、彼に質問をした。