第9章 修羅【土方歳三編】
「ふふ、相馬君と千鶴君を助けた時に彼とは会っていましたが逃げられましてね。捜していたら来るのが遅くなってしまいました。そういえば、貴方は先程面白いことを言っていましたね?我々のことを、まがい物の鬼だとか何とか……」
山南さんは羅刹隊を引き連れて来た。
そして、彼は風間千景へと不敵に笑みを浮かべている。
「ちょうどいい機会です。また、さっきのようにこの力の真価を、その身でとくと味わって頂くことにしましょうか」
彼は髪の毛を白髪に、目は赤くさせて他の羅刹隊の隊士と共に風間千景へと迫る。
そんな時、風間千景の隣に誰かが現れた。
「……新手のようですね。どうします?風間」
「……何度も邪魔をしてくれるとは」
「決まってるだろ。まがい物ごとき、何人いようがオレたちの敵じゃねェ。片っ端から、やっちまおうぜ!いずれ掃除しなきゃならねえんだしな」
不知火匡は殺意が滲んだ目を羅刹隊へと向けていた。
だが、風間千景は刀を抜くことはせずに静かに瞼を閉じている。
「……我が刀を、まがい物ごときの血で汚してやることもあるまい」
「おい、風間……!」
「この場は、退いてやる。だが、諦めたわけではない。その女鬼ともう一人の女鬼は必ず手に入れてやる。……その時を、楽しみに待っていろ」
「待ちやがれーー!」
土方さんは追いかけようとするが、風間千景たちはそのまま通りに面した塀を飛び越えてあっという間に姿を消してしまった。
鬼にとって人間の作り物は障害物にならない。
だけども、あんなにも軽々と高さのある塀を飛び越えてしまうなんて……。
そう思いながら私は風間千景たちが消えた方へと目線を向けていた。
「どうします?追いますか」
「やめておけ。京の人間に、あんたらの姿を見られるのはまずい」
「……承知しました。では、今夜は、ここまでということで」
二人の会話を聞いた瞬間、私は安心して思わず身体から力が抜けてその場に座り込みそうになってしまう。
「……土方さん、ありがとうございました」
「礼には及ばねえ。こっちにはこっちの事情があって、おまえを守っただけだからな。おまえは、さっさと部屋に戻ってろ」
「……わかりました」
そう答えて、千鶴を捜しそうとした時だ。
「千尋ー!!」
「っ、千鶴!!」
千鶴が私の名前を呼びながらこちらへと走ってきていた。