第9章 修羅【土方歳三編】
「人間は浅ましく、愚かで醜い。何度も何度もそう思ったけれども……人間に紛れて暮らすようになってから、浅ましくても優しい人たちもいるんだってわかったんです。だから、今はなんだか複雑な心境ですね」
私は苦笑を浮かべた。
今でも里を滅ぼした人間たちの事は憎んでいて、同じ種族の他の人間も最初は恨んでいたけれど、浅ましいところはあっても心優しい人たちは沢山いる。
だから恨むことばかりはできなくて、複雑な心境のまま過ごしてきた。
「それに、恨んだって殺意を抱いたって両親や千鶴のご両親や里の者は戻ってくるわけじゃないですから……」
恨んだって大切な人たちが戻ってくるわけじゃない。
あの日々が戻ってくるわけじゃないけど、ずっと恨みを抱いていたってどうしようもない。
そう思いながら苦笑を浮かべ続けていれば、千鶴が私の手を握ってきた。
突然の行動に驚いていれば、千鶴は今にも泣き出しそうな表情を浮かべる。
「千尋、今までずっと私を守ってきてくれてありがとう……。そして、何も覚えてなくてごめんなさいッ」
「……ううん。謝る必要はないの……私も、ずっと双子の妹だなんて偽ってごめんなさい」
「謝る必要がないのは私の台詞だよ!それに、本当の姉妹じゃなくても私は千尋を本当の双子の妹だと思ってるから。本当にありがとう、ずっと守ってきてくれて……」
千鶴の言葉に目を見開かせた私だけど、思わず泣きそうになってしまった。
慌てて泣きそうになるのを我慢しながら、私も千鶴の手を握る。
「うん……」
本当の双子の妹じゃないけれども、私もずっと千鶴を本当の双子の姉として思ってきた。
だから、千鶴の言葉が本当に嬉しくてたまらない。
「そういえば、千尋言ってたよな?千鶴には本当の双子の兄がいるって。その兄貴はどうしてるんだ?」
原田さんの言葉に、私は眉間に少しだけ皺を寄せた。
すると千鶴もそれを気になっていたようで、興味があるような目を向けてきていた。
「千鶴の、本当の兄とはもう何年以上も会っていないんです。父様……綱道さんは他の鬼の里の家に引き取られたと言っていましたが、その家が何処なのかまでは知らなくて……。今、何をしているのかどこにいるのかも分からない状態なんです」
「なるほど……。だが、兄君が何処にいるのか気になるものだな」