第9章 修羅【土方歳三編】
だけど、里を逃げ出そうとした時。
私は振り返り、燃え盛る里へと目を向けた時……両親の首が跳ねられている光景を目にした。
『母様あああ!!父様あああ!!』
思わず、私は二人の元に駆け寄ろうとした。
だけどそれを止めたのは、父様……本来は私と千鶴の遠い親戚筋にあたる綱道さん。
私は泣きじゃくり叫びながら、首を跳ねられた両親へと手を伸ばした。
だけど私や千鶴、そして彼女の本来の兄を抱えた綱道さんは走り里を離れたのだ。
「その時の記憶が相当辛かったのでしょう。千鶴は記憶を失い、綱道さんは忘れたのならば今は思い出す必要はない。思い出さないようにと、自らを千鶴の父と偽り、私は双子の妹と偽りました。その時、彼女の本当の双子の兄は、違う鬼の一族に引き取られています」
「……そうだったのね」
話を聞いていたお千ちゃんは悲痛に近い表情を浮かべながら、私を見ている。
同情なのか、それとも哀れみなのか……そんな表情で見られるのは、嫌だった。
そして、隣にいた千鶴はただ驚いていた。
混乱もしていて、瞳を酷く揺らしながら私を見ているので、思わず苦笑を浮かべる。
「私は、双子の妹と偽りながら彼女を守る役目を綱道さんに任されました。【千鶴を守れ、千鶴に仇なす者達から必ず守りなさい。いついかなる時も傍に必ず居て、その命を懸けて、捨てる覚悟を持って守りなさい。純血の女の鬼である千鶴を】……と」
「……なるほどね。だから最初、僕たちにあんなにも警戒していて、千鶴ちゃんに近づけないようにしていたんだ」
「あの時は、皆さんを信用していませんでしたから……」
私は苦笑を浮かべながら、千鶴へと視線を向けた。
「ごめんね、千鶴。ずっと偽っていて、黙っていてごめんなさい」
「千尋……」
「貴方はね、千鶴。雪村本家の純血の鬼なの……だからこそ、風間は貴方を狙っているの」
お千ちゃんは私の言葉に静かに頷いた。
「彼女が純血の鬼の子孫。風間が彼女を求めるのも道理です。鬼の血筋が良い者同士が結ばれれば、より強い鬼の子が生まれるのですから」
「なるほど……嫁にする気か。だが、千尋君も狙っているようだが……」
「千尋ちゃんは、純血の鬼ではありませんが……数少ない最も純血に近い血筋を持つ鬼なのです。彼女もまた、より強い鬼の子を産める……だから風間は彼女も狙っているのです」