第9章 修羅【土方歳三編】
「……千尋ちゃん。貴方は、自分が鬼であることを知っているわよね?」
「……え!?」
彼女の言葉に、千鶴は目を見開かせながら私を見てくる。
本当は隠し通したかった、千鶴は何も知らずにただ幸せに生きて欲しいと願っていたけらども……潮時だ。
「千鶴には、ただ何も知らずに幸せに生きて欲しかった」
「……千尋?」
「千鶴は雪村本家の御息女。私は、雪村本家の分家の出身であり、代々ご当主一家を守っていく分家の当主の娘なのです」
「……どういう、こと?」
「ずっと言ってなかったけど、千鶴。私と千鶴は本当の双子の姉妹じゃないの。本当は親戚なの」
私は雪村本家の分家である当主の娘だった。
父は雪村本家のご当主である千鶴の本当の父君の従兄弟で、父はご当主を護衛役を勤めていた。
母は千鶴の本当の母君であるご当主の奥方様の護衛役であり、私は千鶴の護衛役。
本来は親戚筋であり、護衛役であった。
だが里が滅ぼされた後に、双子の妹だと偽ってこれまで千鶴と共に過ごしてきた。
「……双子の妹じゃなくて、親戚……?」
「何故、私が貴方の双子の妹だと偽っていたか……話すと長くなりそうだけど、話した方がいいよね。……何処の藩なのか思い出せませんが……ある日、その者たちは自分たちに力を貸すようにご当主、千鶴の父君に求めました。ですが、ご当主はそれを良しとはしなかった……」
「良しと、しなかった……」
「力を貸すことを断った夜、その者は圧倒的な兵力で押し寄せて雪村の里を滅ぼしました。その時、私の両親も千鶴のご両親も死にました」
あれは本当に静かな夜だったーー。
虫の音もなく、不気味な程に静かな夜だったのをよく覚えている。
そんな静かさを消したのは、侍達の怒号だった。
全ての家に火を放ち、逃げ惑う里の者たちを斬り殺し、撃ち殺し、槍で刺し殺していった。
『千尋!千尋、早く千鶴を連れてお逃げなさい!』
その夜、私は本家の家にいた。
両親は騒ぎを聞きつけ、外へと出ていき、奥方様は私と千鶴を逃がそうとした。
『奥方様は!?』
『私はあとで行くから、千鶴を連れて早く逃げなさい。人間達がここに来る前に早く!』
私は奥方様に言われた通り、恐怖で泣きながら千鶴と共に逃げ出した。
その時、一緒に本当の千鶴の血の繋がった【双子の兄】もいて、三人で逃げていたのだ。