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君ノ為蒼穹に願ふ【薄桜鬼真改】

第8章 軋み【土方歳三編】


「こちらの考えを理解しろとは言わん。人には人の考えがあるからな。信念の形は人それぞれでいい。……あんたたちはそのまま、自分たちが信じる新選組を信じろ」

斎藤さんは口元を緩めて柔らかい笑みを浮かべた。
あまり滅諦に微笑まない彼の笑みに、少しだけ驚いてしまう。
驚いていたのは私だけじゃなく、他の皆も驚いたような表情を浮かべていた。

(斎藤さんのこんな柔らかい笑顔、何時ぶりに見たんだろう……)

前に見たのはいつ頃だろう。
そう思っていると、平助君が私と千鶴に交互で視線を向けていた。

「千鶴、千尋、ごめんな。これからは近くで守ってやれなくなる」
「……ううん、大丈夫だよ」
「今まで、守ってくれてありがとう。平助君」
「相馬、野村。今後は俺たちの分まで、雪村たちを守ってやってくれ」
「新八っつぁんと左之さんもいるけど、あの二人、ああ見えて抜けてるところあるからさ」

新選組を抜けるというのに、平助君も斎藤さんも最後まで私たちを気にしてくれている。
それが嬉しくて、同時に寂しくて悲しくもなってきてしまう。

平助君は明るく笑うと拳を作り、相馬君と野村君の胸をトン……と軽く突いた。
そんな彼の瞳は真剣なもの。

「……千鶴と千尋を、頼む。男と男の約束だからな」
「……はい、約束します!何があっても先輩たちを守ります。お二人の分まで!」
「……俺も……俺もやりますよぉ……」

胸を張って答える相馬君と、俯いたままの野村君。
二人の表情は、斎藤さんと平助君が去っても晴れることはなく曇ったままだった。

桜の花弁が風にさらわれて旅立つように、斎藤さん達は新選組の屯所を去っていった。
その背中が小さくなる度に、なんとも言えない喪失感が湧き上がる。

「……二人とも。複雑な思いかもしれないけど、そんなに落ち込まないで。斎藤さんも平助君も、新選組が嫌になったから出て行くんじゃなくて、自分が信じることを貫くために行くんだから、それを応援してあげないと」
「そうだね……志はきっと同じだと思う。彼らが進む道をただ見守り、応援しよう?」
「……わかってる。わかってるんだよ。頭の中では、一応さ……。でも、それでも俺は……。……納得いかねえんだよお!!」
「あっ、野村君!」
「野村君……」

野村君は悔しそうに叫ぶとそのまま走ってどこかに行ってしまった。
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