第8章 軋み【土方歳三編】
三木さんを鋭い目付きで見るが、彼は何も気にする様子を見せない。
すると彼は『ああ、そうだ』と呟いた。
「兄貴はお前が役に立ちそうだから、よく話しかけていたけどな。本当はお前から新選組の弱みを聞き出そうとしてたんだよ。まあ、お前は思った以上に警戒心が強かったけどな。ま、でも役には立ちそうだから御陵衛士には欲しかったけどな」
伊東さんに聞こえないようになのか、彼は私たちに聞こえるぐらいの小声で囁いてきた。
これで伊東さんが何故、私によく話しかけてきたのか納得した。
土方さんの小姓である私を取り入れたら、新選組の弱みを握れると思ったんだ。
だけど、私は土方さんや他の幹部の方々に警戒するように言われていたので、警戒していたけれど……そうして正解だった。
「そうですか」
そう返事をすると、三木さんは何も言わずに伊東さんと同じように背を向けた。
二人は迷いのない歩みで新選組の屯所から去っていく。
残された私たちがその背中を見送っていると、野村君は苛ついた様子で歯噛みをしていた。
恨めしそうに彼らの背中を見ながら。
「くそっ、どうして東堂さんたちはあんな奴らと一緒に出て行くんだよ!」
「……実は、俺は野村と同じ意見です。どうしてお二人はこの新選組ではなく、御陵衛士を選ばれたんですか?」
「どうして、って言われてもな……一言じゃうまく説明できねえよ。けど、今の幕府が力を無くしてきてるのは、おまえらだって実感してるだろ?」
「確かにそれは……幕府の陸軍隊で、嫌というほだ身に染みしたけど……」
平助君の言う通り、幕府は徐々に力を無くしてきていた。
すると平助君は相馬君の言葉に小さく頷く。
「だからオレは思ったんだよ。今のまま幕府に全てを任せるより、他にできることがあるんじゃないかって」
「俺も同じだ。攘夷を成すならば新選組に居てはできないこともある」
「それが……御陵衛士ならできるんですか?」
「そうかもしれねえし、そうじゃないかもしれねえ。……オレ自身だって、この考えが正解って自信はねえけどさ。だけど、今の場所を飛び出さねえと、見えてこねえものだってある。……相馬や野村ならわかるだろ?」
彼の言葉に相馬君と野村君は黙ってしまった。
二人も藩を飛び出し、新選組に来たから平助君の言葉に反論出来なかったみたい。
ただ顔を顰めながら俯いていた。