第8章 軋み【土方歳三編】
「最後はきちんと挨拶をしておこうと思いまして」
「それはまた素敵な心がけね。他の隊士も少しは見習ってもらいたいわ」
他の隊士の方々はこの場にはいなかった。
伊東さん達が御陵衛士として、新選組を離隊すると知られた後から新選組の隊士の方々は彼らと関わろうとはしなかったのだ。
「一部の連中と来たら、口も利きたくないとばかりに顔も見せないんですもの」
「はっ。オレとしちゃそっちのほうが気が楽だけどな。顔を見たくもねえのはお互い様だし」
「およしなさいな、三郎。いくら本当のことでも口にする必要はなくてよ」
「へいへい。悪かったよ兄貴」
前から思っていたけれど、三木さんは本当に伊東さんの言うことだけは素直に聞いている。
なんて思いながら、私は斎藤さんと平助君へと視線を向けた。
彼らとはあれから会う機会も話す機会も減った。
平助君はまるで避けるように私たちを見たら、どこかへと行ってしまったし斎藤さんも声をかけても直ぐに行ってしまっていたから。
(でも、今日で彼らと話すのは最後になるかもしれない……)
新選組隊士と御陵衛士の接触は禁止された。
だから、もう話す機会は無くなるだろうし会える事も無くなるかもしれない。
そう思うと酷く寂しくなった。
「……そんな顔しないでくれよ、千鶴と千尋。出て行きづらくなっちまうだろ」
「袂を分かつとはいえ、国のために働こうという気持ちは同じだ。悲観する必要などない。いずれまた、どこかで会うときも来るだろう」
「……はい。わかっています。わかっています……けど……」
私も千鶴も、本当は止めれるなら止めたい。
行かないで、どうしても行ってしまうんですか……そう言いたいけれど、その言葉は喉からは出なかった。
「斎藤さん、東堂さん!」
すると、彼らの名前を叫ぶ声が聞こえてきた。
振り返ればそこには野村君と相馬君がいて、彼らは寂しそうに顔を歪ませている。
「……野村に相馬。おまえらも来ちまったのか」
「本当に、お二人は離隊してしまうのですか?新選組の設立から関わっていた、古くからの仲間だと聞いていたのに……」
「離隊するのは事実だ。あんたたちにも、話は前もって伝わっているはずだが」
「それは聞いてますけど……!でも、まさか本気とか……!」
彼らが離隊すると伝えられた時、野村君は『冗談でしょ!』と笑い飛ばしていた。