第8章 軋み【土方歳三編】
「どう、ってのはどういうことだ?」
「斎藤さんや平助君……他の新選組の仲間が、離れてしまうのでどう思っているのだろうと……」
「たとえ仲間だったとしても、互いの立場が変わりゃ敵になることもある。ただそれだけの話だ。今の時代、ありふれたことだろ」
そう言っている土方さんだが、目が少しだけ寂しそうだった。
平助君も斎藤さんも、元々江戸から一緒に京に来た仲間であり、長い付き合いだと聞いた事がある。
本当は寂しいはずなのに、彼はそれを表に出していなかった。
「本当にそれだけなんですか……?」
「どういうことだ?」
「平助君や斎藤さんが抜けるのに……」
「斎藤や平助か……。確かに、あいつらを引き抜かれたのは痛手だがな。いずれ裏切るかもしれねえ奴らなら、今のうちに旗色を明らかにしてくれた方が助かるってもんだ」
「……私が聞きたかったのはそれじゃないです」
土方さんは私の言葉に怪訝そうな表情を浮かべた。
表向きは割り切っているように見えるけれども、土方さんの目だけは違う。
「土方さんの目、寂しそうですよ」
私の言葉に土方さんの瞳が僅かに揺れた。
驚いているのか、動揺しているかどちらかの瞳の揺れ。
そんな彼の瞳を真っ直ぐに見つめていると、土方さんは苦笑を浮かべる。
「寂しそう……か。お前はそう見えるんだな、俺の目が」
「……え?」
「他の奴らは、俺の目を人殺しの目、鬼の目だなんて言うのにな」
そんな彼の瞳はまた寂しそうに揺れていた。
彼は立場上、割り切ったようにしなければいけないのかもしれない。
それが鬼だと言われても、内側の彼は優しい人なのに。
それから数日後。
千鶴の怪我は完全に治ったけれど、怪我が治ったということを見抜かれないように包帯だけは巻き続けていた。
時折山崎さんが、怪我の様子を見てくれようとしたけれど私が断り、私が手当してるように見せていた。
そして今日は、伊東さんと斎藤さんに平助くん達、御陵衛士が新選組から離隊する日だーー。
「ーーあの!待ってください!」
「伊東さん達、平助君、斎藤さん……!」
千鶴と私は、出ていこうとしていた御陵衛士の方々に声をかけた。
「……千鶴、千尋……」
「あら、雪村君達。ひょっとしてお見送りでもしてくれるのかしら?」
「……はい。皆さんには今まで、いろいろとお世話になりましたから」