第8章 軋み【土方歳三編】
「……当然だ。これ以上、あいつらの好き勝手にさせるつもりはねえからな」
「でも……本当にいいんですか?伊東はんや皆さんが、ここからいなくなってしまっても……」
「伊東派の奴らが抜けたところで、困ることはねえよ。ま、平助と斎藤と一緒だっていうのは、少しばかり計算外だったがな」
「まあ……な。彼らの期待に応えられなかった我々の落ち度でもあるが……」
平助君は伊東さんと昔からの知り合いだと聞いた。
だけど、斎藤さんは土方さんの事を凄く尊敬していてとても信用していたはず。
(なんで、二人とも伊東さんに着いていく事を決めたんだろう……)
本音を言えば行ってほしくなかった。
行くのを止めてほしいと願ったけれど、彼らが決めた事を私なんかが否定してはいけない。
そう思いながら、私と千鶴は広間を後にした。
「……まさか、こんなことになるなんて」
「……思わなかったよね」
廊下に出れば何時より屯所は静かだった。
昨日までは、いつも通りの朝を迎えて賑やかな朝食の時間が来るんだと思っていたのに。
「でも、伊東さん達が隊を離れることを、新選組に残る人はどう思ってるんだろう……?」
「どう、だろうね。……あ」
「どうしたの?千尋」
「刀、土方さんの部屋に置いてきちゃった。取りに行ってくるね」
「私、勝手場にいるね」
うっかりしていたと思いながら、私は土方さんの部屋へと向かおうとした時だった。
広間から土方さんが出てきて、私へと視線を向けてくる。
「土方さん……」
「お前、休んでなくていいのか?昨日ぶっ倒れたんだから、今日ぐらいゆっくりしてろ」
「それは、もう大丈夫です。今は目眩とか吐き気とかもしませんし」
「そうか?というか、お前の姉も休めばいいのに……医者の娘だから傷がすぐ治る特別な薬を持ってる、ってわけでもねえだろう?二人とも、部屋で大人しくしてろ」
「……でも、朝餉が」
「他の隊士にさせりゃいい。とにかく休め」
「……分かりました」
前から思っていたけれど、土方さんは過保護な所が少しだけある。
沖田さんの風邪がなかなか治らない時もそうだけど、ぶっきらぼうで厳しいけれど優しい人だ。
「……あの、部屋に戻る前に一つ聞いていいですか?」
「何だ?」
「少し気になってたんですが……伊東さんたちの離隊について土方さんはどう思ってるんですか?」