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君ノ為蒼穹に願ふ【薄桜鬼真改】

第8章 軋み【土方歳三編】


「さ、さーー山南さん!?なぜ、亡くなった筈のあなたがここに……!?」

伊東さんの言葉に、その場にいる誰一人として口を開くことが出来なかった。
だが、やがて土方さんは眉間に深く皺を刻みながら呟いた。

「……これ以上隠し通すこともできねえ、か。雪村達、おまえ達は席を外してろ。この部屋は使えねえし、騒がしくなるだろうから今夜は俺の部屋を使って構わねえ」

土方さんの言葉を聞きながらも、私は意識が少しだけ朦朧としていた。
ずっと漂ってくる血の匂い、視界に映る赤黒い液体、そして未だに残る人を斬った時の感触。

気持ちが悪い、怖い、苦しい。
脳裏にその3つの言葉が回り、視界が徐々に白み出した時だ。
私の身体はゆっくりと傾きだし、最後に視界が移したのは驚愕している土方さんの表情だった。

「雪村ッ!!」



❈*❈*❈*❈*❈*


真っ赤な炎が視界を埋めつくしていた。
木々が燃える匂い、そして辺り一面を覆い尽くすように地面を染めている炎じゃない【赤】。

『助けてえ!!』
『殺せ!!一人残らず殺せぇ!!』
『逃げなさい!!早く!』
『きやああああッ!!』

響いてくる悲鳴と怒号。
そして目の前で斬られた人物は、ゆっくりと倒れていき私はその人物へと手を伸ばした時だった。

「……ゆ、め……?」

手を伸ばそうとした瞬間、私は飛び起きていた。
身体はがくがくと震えていて、頬や首には汗が伝っていて気持ちが悪い。

汗を手で拭いながら部屋を見渡せば、自分が使っている部屋じゃないことに気が付いた。
この部屋は見覚えがあるけれど、どこの部屋なのだろう。

「……あ、そうだ……土方さんの部屋だ」

直ぐに自分が意識を失ったのだと気が付き、そしてここは土方さんの部屋だと分かった。
意識を失う前に、土方さんが『俺の部屋を使って構わねえ』と言っていたのを思い出した。

部屋を見渡していれば、隣で千鶴が眠っているのに気が付いた。
そういえば、千鶴は羅刹隊士に腕を斬られていた。

(怪我は……多分治ってるはずだけど)

ゆっくりと手を伸ばして千鶴に頬を触れると、手のひらに温かさが伝わった。
ちゃんと暖かいことに安堵しながら、なんとなく外の空気が吸いたくて、布団から出ると廊下へと出た。

「……風、冷たい」

ひやりとした風に若干身震いしてしまう。
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