第8章 軋み【土方歳三編】
目眩を感じながら、私は千鶴に支えられながら土方さんの元に駆け寄った。
そして駆け寄ったの同時に、数人の足音が聞こえて永倉さんと原田さんに平助君が飛び込んでくる。
「千鶴ちゃん、千尋ちゃん!無事か!?」
「こいつ、まさかーー」
「こいつ……、この間、変若水を飲まされた隊士だな。ここまで狂っちまっちゃ、生かしておくわけにゃいかねえか」
三人は狂っている羅刹隊士を見ると、瞬時に状況を理解してから刀を抜いた。
「新八っつぁん、左之さん!抜かるんじゃねえぞ!」
「てめえ、誰に物を言ってやがるんだ?」
「羅刹だろうが何だろうが、並の隊士に後れをとるわけねえだろ」
原田さんたちは、羅刹隊士を取り囲む。
そして羅刹隊士の目の前に立っていた土方さんは、彼へと小さく呟いた。
「……悪く思うなよ」
当時に彼ら四人は羅刹隊士へと斬りかかり、部屋に再度絶叫がこだました。
「ぎゃああああっーー!」
四人に斬撃された羅刹隊士は血を溢れさせながらその場に倒れ、絶命した。
畳にはみるみると彼の血で染まっていき、私は勢いよく血から目をそらす。
だけど、顔にも襦袢にも血が付着していて身体が酷く震え始めた。
息もずっと荒いままで、目眩を感じながらも危険なものは居なくなったと安堵しようとした時ーー。
「……まったく、こんな夜中に、何の騒ぎですの?」
「伊東さん……!」
騒ぎで目を覚ましたのか、伊東さんは眠たげに目をこすりながら部屋の中に足を踏み入れて硬直した。
「な、何なのですか、これは!」
「……ちっ」
「そこの隊士には、見覚えがありますわ。確か、隊規違反で切腹させた筈では……!それに、この血……!あなた方の仕業ですの!?」
「い、伊東さん、違うんだ!これはさ……!」
悲鳴に近い言葉をあげながら、辺りを見渡す伊東さんに平助君は狼狽えながら、なんとかしようとしたが伊東さんは目を釣りあげて叫んだ。
「何が違うのですか!幹部総出で、寄ってたかって隊士をなぶり殺しにするなんて……!誰か、説明なさい!一体、何があったんです!?」
伊東さんは羅刹の事を知らない。
だからこそ、戸惑いながら叫んでいる時だった。
「皆さん、申し訳ありません。私の不注意が原因です」
「さ、山南さん……」
「山南さん!」
突如現れた山南さんに、伊東さんは驚愕さながら目を見開かせていた。