第8章 軋み【土方歳三編】
「でも、外出した際に買っておいた方が良いかもと……」
おずおずと私が言えば、土方さんは更に呆れたような表情をしていた。
すると、暫くしてから長い長いため息を吐いているので、小間物店はやっぱり辞めた方が良いのかなと悩んでしまう。
「たくっ、仕方ねえな。相馬、お前は姉の方と薬屋の方を回れ。俺は妹の方を連れて小間物店に行く」
「分かりました!」
「用事が終わったら、さっき着替えに行った近藤さんの別宅に行け。言っておくが、他の新選組の奴らには見つからないようにしろよ」
「はい!この相馬主計、任されました!では、行きましょう雪村先輩」
「うん。じゃあ千尋、また後でね」
「うん。気をつけてね」
二人の背中を見送っていれば、隣にいた土方さんはゆっくりと歩き出していた。
「行くぞ」
「あ、はい!」
土方さんの後ろを歩きながら、ふとある事を思い出した。
女物の着物を着てから土方さんと二人っきりになったのは、あの日の宴会以来ということを。
あの日の宴会、土方さんは私に【妾になってほしい】と執拗いぐらいに言ってきた友平様に対して【自分の女だ】と言っていた。
その言葉を思い出した瞬間、急にまた恥ずかしくなってしまう。
(あ、あれは友平様の興味を削がすための嘘なんだから……恥ずかしがる必要は無いんだから!)
顔が熱くなっていくのを止めようとしていると、前を歩いていた土方さんが足の動きを止めてから、私の方へと振り返った。
「土方さん?どうかされましたか?」
「今日は、女物の着物だから歩幅が違えなと思ってな」
「……あ!すみません、歩くの遅くて」
何時もは袴なので、大股で歩いているから歩くのは遅くはなかった。
でも、今は女物の着物だから大股では歩けない状態であり、歩くのが遅い。
土方さんに迷惑をかけてしまったと思っていれば、彼はまたため息をはいた。
「お前が謝る必要はねえよ。こういう時、男が歩幅を合わせて歩くもんだしな。悪かったな、気付いてやれなくて」
「いえ……そんな」
「にしても、変な気分になるな」
「……変な気分?」
土方さんは苦笑いを浮かべながら、私の事を見てくる。
「女物の着物を着てるせいか、何時ものお前みたいじゃなく感じちまう。そのせいで変な気分になっちまうな」
「そ、そうなんですか?あ、でも変な気分になるのは似合ってないからとか」