第8章 軋み【土方歳三編】
驚いたけれども、褒められた事が凄く嬉しかった。
お茶を褒められた喜びを噛み締めていれば、茶店のお店の方が【かすていら】と【たると】を持って来て、それぞれを私達が座っている縁側に置いてくれた。
「どうぞ、ごゆっくり」
「わあ……これが、【かすていら】」
「【たると】は餡子が入ってる……」
黒縁のお皿に置かれた【かすていら】は、柔らかい黄金色をしていた。
ふわりと香る甘い匂いに思わず笑みを浮かべながらも、備え付けられていた黒文字で小さく切ってから口に含んだ。
「……美味しい」
「美味しいですね、本当!【かすていら】初めて食べましたが、こんなに美味いなんて」
「うん、【たると】も美味しい!」
千鶴と相馬君も美味しそうに食べていて、その表情は柔らかく笑みも浮かべていた。
そして、時折私と千鶴はお互いの【かすていら】と【たると】を交換しながら食べたりと、南蛮菓子を楽しんだ。
ゆったりとした時間が過ぎ、南蛮菓子を楽しんだ私達はお茶を口にしながら雑談をしていた。
夕餉は何を作ったら喜ばれるか、昨日の巡察の出来事や色んな話を。
すると、隣にいた土方さん立ち上がった。
「相馬、これで会計してこい」
「あ、はい!」
「ここばっかに居座るんじゃなくて、少しは他の場所を見回ってもいいだろう。お前ら、何処か行きてぇ場所とかないのか?」
「「行きたい場所……」」
土方さんの言葉に、千鶴と顔を見合わせながら首を少しだけ傾げた。
そんな私達の元にお会計を済ませた相馬君が戻ってきてから、土方さんにお釣りを渡している。
「どうしたんですが、雪村先輩達」
「何処か行きてぇ場所はねえか聞いたら、悩み始めたんだよ」
「成程……。京は色んな有名な場所がありますし、悩みますよね」
何処に行きたいかと聞かれたけど、何処に行きたいから全く思いつかない。
そう思いながら悩んでいると、ふとある事を思い出した。
「あ、裁縫道具の糸が足りなかったり針が壊れたりしていたので小間物店に行きたいです」
「そういえば、お薬とか切れそうでした。なので薬屋に行きたいです」
「あのなあ……」
「雪村先輩達、今日は先輩たちが頑張ったご褒美としての外出ですから、仕事の事は一旦置いて……」
私と千鶴の言葉に、土方さんは呆れた表情を浮かべていて、相馬君は困った表情をしていた。