第8章 軋み【土方歳三編】
また、お会いした時にはお礼を言わなければと考えていると土方さんの足が止まった。
彼が足を止めた横には茶店があり、若い女性や男性で賑わっている。
「ここが、例の茶店だ」
「すごく賑わってますね……」
「やはり、南蛮菓子は珍しいからでしょうか」
賑わいに驚いていると、土方さんは直ぐにお店の中に入っていき、店主の方と何かを話してからまた直ぐに外へと戻ってくる。
「そこ、座るぞ」
「あ、はい」
縁側には人がいなくて、お店の中からはお客さん達の賑やかな声が聞こえてきた。
その声を聞きながら、既に腰掛けていた土方さんの隣に腰をかける。
隣には千鶴が座り、その隣には相馬君が座った。
座ってから暫くして、お店の方が人数分の湯のみを置いてくれる。
京都の名産とも言われる宇治茶のいい匂いがして、一口飲めば甘みと旨みがゆっくりと広がっていく。
「副長、先輩方。何を頼みますか?」
「俺は別に要らねえから、お前らが何食べたいか決めて頼め」
「え、副長は食べないんですか?かすていらかたるとを」
「茶で十分だ」
「じゃあ、先輩達はどれ食べますか?」
【かすていら】か【たると】。
どちらも食べたことはないから、どちらにしようかと悩んでしまう。
すると千鶴が声をかけてきた。
「二人でそれぞれ頼んで、わけっこしない?」
「……そうだね。それがいいね」
「じゃあ、【たると】が一つで【かすていら】を二つ頼みますね」
相馬君はお店の中に入ると注文をしに行ってくれた。
その間、私はまた宇治茶を飲みながら町の人達が歩いていく道を眺める。
道を眺めながら、癖になってしまった父様らしき人を探してしまう。
湯呑みを手にしまま、歩いていく人々を眺めていた。
「……淹れる人間が違うと、味が違うな」
「え?」
隣の土方さんは湯呑みを持ちながら一言呟いた。
「前にお前、宇治茶を持ってきた時あっただろう」
「あ、はい」
「その時の味と、この店の味が違ぇなと思ってな」
「確かに、淹れる人が違えば味も変わるみたいですから。私のよりも、お店のお茶の方が美味しいですね」
そう言いながら一口お茶を飲む。
私が淹れるのと違って、甘みがあると思っていると土方さんも一口飲んでから呟いた。
「お前が淹れる茶の方が美味い」
「……え」
まさか、褒めてもらえるとは思ってもいなくて、思わず目を見開かせてしまった。