第8章 軋み【土方歳三編】
懐かしい思いを抱きながら、隣の部屋で待っている土方さんと相馬君の元に向かった。
女物の着物を着ている姿を、二人に見せるのはあの夜の日以来であり、少しだけ気恥しい気分。
「あの、お待たせしました……」
ふすまを開けてから二人に声をかける。
そして、相馬君はあの人同じように千鶴と私を見てから目を見開かせていた。
相馬君の反応を見ながら、私は土方さんへと視線を向けれてみる。
目を見開かせてたりはしていないけど、目尻を何時もより柔らかくしていた。
「よく似合ってるじゃねえか」
「そ、そうですね!雪村先輩達、よく似合っています!」
「……あ、ありがとうございます」
「ありがとうございます……」
やっぱり、照れてしまう。
そう思っていれば、胡座をかいて座っていた土方さんはゆっくりと立ち上がった。
「じゃあ、行くぞ」
私と千鶴と相馬君は、土方さんの言葉に返事をしてから京の町へと出た。
普段は男装で歩いている町だからなのか、何時も違う気分になってしまう。
千鶴とこうして、女物の着物を着て出掛けるのは本当に何時ぶりなんだろう。
そう思いながら、よく歩いているはずの町を何故か見知らぬ町を歩いているように見回してしまった。
「土方副長。近藤局長は出掛けたら良いと言ってましたが、何処に行くとかあるんですか?」
「ああ。この先をもう少し歩いた所に、南蛮の菓子が食べれる茶店があってな」
「南蛮のお菓子……」
「かすていら、たると……とか言うやつだったかな?八郎が教えてくれた店なんだが」
「かすていら……たると」
あまり聞かない名前だけど、どんな南蛮のお菓子なんだろう。
南蛮のお菓子は珍しいから、どんな物が食べれるのだろうと楽しみに思ってしまう。
「楽しみだね、千鶴」
「そうだね。南蛮のお菓子なんて、あまり食べれるものじゃないから」
「確かにそうですね。金平糖も南蛮のお菓子で、聞き馴染みのあるものですが、かすていらにたるとはあまり聞きませんから」
「まあ、あまり聞かねえな。で、その店は女子供に人気らしいから、八郎が連れて行ってやってくれってな。迷惑かけちまったからって」
「……八郎お兄さんが」
あの夜の翌日、八郎お兄さんは【本当にごめんなさい】と謝罪しに来られた。
特に私には迷惑と不愉快な思いをさせてしまったと、凄く申し訳なくされていたのを思い出す。