第8章 軋み【土方歳三編】
「千尋ちゃんには、土方さんが一緒に居たら良いんじゃないんですか?」
「そうだな、千尋は土方さんと一緒に出掛けたらいいと思うぜ。それと、千鶴は相馬がいいと思うぜ、近藤さん」
土方さんの言葉を遮るように、ニヤニヤと笑っている沖田さんと原田さんが言葉を挟んだ。
すると、土方さんは顔を不機嫌そうに歪ませてから何かを言おうとしたが、近藤さんがそれを遮る。
「うむ、確かにそうだな。トシと相馬君、二人に雪村君達と出掛けてもらおう」
「お、おい!近藤さん!」
「お、俺がですか!?俺みたいな小姓ではなく、幹部の方々の誰かの方がいいのでは!?」
指名された二人は慌てた表情をして、近藤さんに話しかけるが、近藤さんは【トシと相馬君、頼んだぞ!】と言って決めてしまった。
そうして、私と千鶴はあの日の夜ぶりにまた女物の着物を身に付けて土方さんと相馬君と共に京の町を出掛ける事となった。
その後、私と千鶴と相馬君は土方さんに連れられて近藤さんの別宅というお屋敷に向かった。
「着物は奥の部屋に用意してあるからそこで着替えてこい。俺と相馬はここで待ってるから」
「分かりました」
「すぐに着替えてきますね!」
「別に急がなくていい。慌てずにゆっくり着替えてこいよ」
私と千鶴は土方さんに言われた部屋に向かった。
部屋には衣装箱が二つおかれていて、あの夜の着物とはまた違う綺麗な着物。
「この前と違う着物……」
「本当だ……」
衣装箱には私と千鶴、それぞれ名前が書かれた紙が置かれていた。
萌葱色に桜吹雪が描かれた着物、そして桜の形をした簪が置かれている木箱には千鶴の名前。
そして、竜胆色に三日月が描かれた着物に雫型の簪が置かれた木箱には私の名前がある。
この前とはまた違った美しさの着物。
こんなに綺麗なものを身にまとって良いのだろうかと思ってしまう。
「この前とまた違うけど、これも多分高いよね……」
「……うん。近藤さん達ににお礼、言わなきゃ」
「そうだね……」
二人でそう言いながらも、土方さんと相馬君を待たせているからとすぐに着替えた。
そして着替え終わると、私と千鶴はお互いの姿を見てから微笑む。
「千鶴、凄く似合う!」
「千尋も凄く似合うよ!……なんだか、懐かしいね。二人で新しい着物を父様に買ってもらったら、よく出掛けてたよね」
「そうだね。懐かしい」